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[コメント] ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ(2016/米)

founderは名詞だと創設者だが、動詞だと沈没する、失敗する、駄目になる、という正反対の意味になる。神の意志、義に反した創設は駄目になる、と覚える。で、映画もそんな含みではないのだろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







キートンが下積時代に『波止場』を観る件があるが、あれは組織論の物語だと思えば脈絡が合う。兄弟を組合牛耳っている悪役リー・J・コッブに見立てたのだ。そして続いてマックの全国普及は愛国だ、十字架と国旗とマックのアーチだと云いだすのがすごい。レフトの影響受けてライトの発想する人が出世する世の中というものがあり、映画はこの核心をついている。

コーラの商標を商業主義だという兄弟をビート族かと嗤い、ミルクのパウダー化(冷蔵庫の電気代の節減)を邪道だという本店を押し切る(ときに冒頭の5本軸ミキサーはどうなったのだろう)。増粘剤でべとべとのアイス。あれは食品添加物で、一日の摂取量に制限があるのだ。

そしてキートンは契約を覆す。土地会社を初めて契約変更ではない追加だと強弁し、追放できないところへ兄弟を追い込む。これはすごい。アメリカの看板企業が契約を無視したのだ。契約書なんか読んだことがない我々日本人は、アメリカは契約社会、裁判社会だと学んだものだが、その実態にはこんなものだったのだ。さらにキートンは兄弟に、売上1%譲渡を文書化せず口約束にしてしてしまう。

そして最後の字幕、パウダーはアイスクリームに戻った、紳士協定の売り上げ1%は守られなかった、でこの皮肉映画は完結する。これはそのままビジネスのアイロニーそのもの。映画が描写した駆け引きは全て実態を伴わなかったと晒して呆れさせられる。序盤のテニスコートで店内のレイアウト考案する愉しかった成功譚はもう夢か幻のようだ。キートンの妻についても、中盤辺りは彼女が正しいという物語かと思わせて彼女も捨ててしまう。

だから本作は両論併記の皮をかぶった告発に他なるまい。しかし最後まで両論併記の中立が保たれたと思わせる演出が一方でなされている。本作でキートンの辣腕を褒めることもできない訳ではない。ホテルのレコードの説教を暗唱するビジネスマンの人生もまたアメリカンドリームなんだろう。イーストウッド周辺からキャリアを始めたこの監督は、やっぱり共和党系なんだろうか。この両論併記の匙加減の微妙な話法は高級で、ある種画期的なものを感じたことだった。あと、冒頭にマックとの比較で当時のハンバーガーショップが再現されているのがとても面白かった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ロープブレーク[*]

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