グレン・クローズは喋らなくても怖い希有な女優さんである（失礼）。そんな彼女に加えて、浴室で刃物という設定のラストに、映画を観ていて久しぶりに怖い思いをした。浴室というのは、そもそも心も体も無防備になる場所で、もしそこに部外者が入ってきたら誰でも不安な気持になるだろうが、その部外者が刃物を持っていて、しかもグレン・クローズとくれば、その恐怖たるや普通じゃない（たぶん）。しかも、刃物でじわりじわりと切られる感覚は、包丁で指を切るなど、日常生活で誰もが経験したことがあるだろう痛みと重なって想像しやすく、銃をつきつけられて絶体絶命の人間を観るよりもはるかに怖かった。

ストーリー的には、何を勘違いしたのか主人公がいつの間にか被害者気取りになるのが難点だったかもしれない（どういうわけかマイケル・ダグラスはそういう男がはまり役）。最後にあんな写真をもってきて、家族の絆でも強調しているのか、主人公に対する皮肉なのか知らないが、いずれにしても悪趣味な気がした。