[コメント] 夜の大捜査線(1967/米)
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1.感想
ラストで,列車に乗るバージル(シドニー・ポワチエ)を,一見素っ気ないが,共に戦った同士という感じで見送る警察署長(ロッド・スタイガー)だが,黒人への偏見を完全に払拭できたのかどうかは疑問に思う。
それは,署長がバージルを家に泊め「他人を家に泊めたのは,はじめてだ」と告白するシーンを見れば明らかで,一見バージルを認めたように見えた署長が,その直後に「黒人に同情されたくない」と怒り出すからだ。バージルの有能さを認め,白人でさえ招いたことのない自宅に彼を呼んでさえ,この一言。やはり黒人に対する偏見・差別意識というのは,日本人の我々からは想像もつかないほど根深いのだろうと思った。
この作品で,黒人は,綿花畑などの労働者として登場するが,きちんと描かれている人物としては,堕胎を業としている老女を除けば,バージルのみ。後は,冴えない署長をはじめ,やる気もなく無能な部下たち,バージルを襲うゴロツキ共,最初に犯人と疑われる男やスタンドの店員,そして誰彼構わず裸を見せる女とその兄…と,すべて白人だ。
その役割は,おそらく意図的に,一般的な偏見のイメージ(知的な白人,頭の悪い黒人)とは逆になっており,優秀なバージルに比べて,白人たちは誰も無能でどうしようもなく描かれている。しかし,そんなどうしようもない白人(例えば,警察官サムに妊娠させられたと署長に訴えてくる兄妹)でさえ,黒人を低く見ている…というより,同じ人間として見ていない。この作品のすごいところは,殺人事件を追っていくストーリーを淡々と描きながらも,いろいろな形で(なかなか人種差別の厳しい現実を実感としてわかりにくい日本人にさえ)突き付けてくるところだと思う。
2.タイトルについて
原題を直訳すれば「夜の熱気の中で」といった感じになるだろうか。それほど英語が得意ではないのでわからないが,「夜(Night)」を手元の辞書で調べてみると,「昼夜」の「夜」だけでなく,「(無知・罪悪・悲しみ・死などの)やみ」という意味もあるらしい。舞台が米国南部だから夜も非常に暑いのだろうが,黒人への偏見という象徴的な意味も入っているのだと解するのは,深読みのし過ぎだろうか?
なお,この邦題も悪くないが,死ぬまでシネマさんも書いていらっしゃるように,どう見ても「大捜査線」というほどの事件ではない。もう一つ余談ついでに,「踊る大捜査線」のタイトルって,やはりこの作品から取ったんでしょ?
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