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[コメント] 花筐 HANAGATAMI(2017/日)

標榜された反戦映画としてはひ弱なものだ。日本浪漫派の檀一雄などこんなものだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「戦争に行くのは怖くない」「いつかもう誰も死なない、殺されない日がくればいいね」という認識はせいぜい「戦艦大和」の吉田満だろう。血のイメージは結核の吐血と日の丸鉢巻きをつないでしまう。講談読物風に類型化された登場人物たちは「非国民」という言葉で自分を規制し続け、あまり大した目鼻立ちも与えられず映画は終わる。

いつもの大林流のブルジョア一家が「なぜ戦争するんだろう」と呟いても抽象に留まる。常盤のブルジョア家庭の収入源は、当時の貴族階級ならどうせ戦争利権と関連があるだろう。窪塚俊介が「殺されやしないぞ」の怪気炎あげて走る路地に『人情紙風船』のポスターを被せるが、山中貞雄はもう死んでいるのだから外しているように聞こえる。

そして最後に語りでもって、彼等は犠牲者だった、戦争は駄目だ、と総括されて映画は終わる。これで反戦映画、でいいのだろうか。若い観客の知らない戦中のリアリズムを教えて進ぜようという厚かましい話法に聞こえるし、21世紀にもなって加害者の側面を何も描いていない。昔とおんなじ。知性が感じられないのである。

映像表現はいつもの大林流だが、流儀総覧の迫力がありテンション高めで愉しい。バッハのヴァイオリン協奏曲など流しっぱなしの音楽がいい。個人的にベストは教室の窓からすぐそこに眺められる荒波。袴姿で岸壁に立つ切り絵風など漫画でよく決まっている。サイレント映画の外連を最も継承したのは彼だったかも知れない。へろへろした主人公も大林的人物。

戦中に唐津くんちの派手な祭りは許されただろうか疑問。史実はもうどうでもいいのだろうが観光案内っぽくて安い。最後の酒宴はベルモットをそのまま呑んでいるが、当時はそうしたのだろうか(普通はカクテル用のフレーバーワイン)。山崎紘菜ってどこかで見た人だと随分考えて、TOHOシネマの宣伝で出てくるお嬢ちゃんかと気づいた。この子のエロキューションは好きだ。

(評価:★3)

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