[コメント] 肉体の門(1964/日)
多分、この演出が表面的には真似し尽くされて、目新しさは薄れてしまったのだろう。なので本作には、ワケが分からないと評されるようなシーンは皆無だ。だが、今見てもこのちょっとだけ普通じゃない演出は、安直に真似されればされるほど、本家の方がカッコいいと思えてしまう。
「星の流れに」が流れる開巻。野川由美子の歩く横顔アップに続いて、女たちが引きずられたり担がれたりしながら引っ張られるモブシーンになる。これが軽い高速度撮影のショットだ。ちょっと後の、野川が芋を盗んで和田浩治に追いかけられるシーンもスロー。もうこの冒頭から面白い!闇市や川と橋のあるオープンセットも見事なものだが、何と云っても爆破された跡のような廃墟のアジトは素晴らしい装置だ。赤−河西都子、黄−石井富子、紫−松尾嘉代、緑−野川、黒−富永美沙子に色分けされる女たち。こゝに紛れ込んで、排除されず逆にリーダーになってしまう宍戸錠のギラギラした魅力。野川の脳内イメージを表現した二重露光の多用。赤い衣装の河西を、投光器で作った丸い照明で追う舞台的な演出も清順の十八番だが、赤、黄、紫、緑の、4色の女たちがそれぞれのカラーを背景に宍戸について独白するショットの挿入、これがカッコいい。あるいは、4人が固まって「リンゴの唄」を唄うショットで見せる、彼女たちの周りをぐるっと回る移動撮影も。
さて、重要な事柄だと思うので書いておくが、紫の松尾嘉代は序盤の水浴びをしている場面で、斜め後ろからのショットだが、ほとんど乳房が見える。こゝは野川も上半身裸だと分かるが、ヌードとは云えないか。黒い着物の富永美沙子は馴染み客(小笠原さん)−江角英明との情交シーンで胸を見せるし、リンチの場面でも素っ裸にされるので、一番裸体をさらけ出している。そして野川も、終盤に腕を縛られ吊るされて鞭打たれる場面では上半身裸の正面ショットがある。ちなみに、こゝは富永ほどの酷いリンチシーンにしないで、サラッとした演出で済ましており、これは物足りなかった。下半身も裸の設定だが、巧みな照明で上手く隠しているのには感心した。河西郁子と石井富子も際どい衣装のシーンばかりだが、2人はヌード無しだ(別に見たいとも思わないのですが、事実として)。
あと「シマ(縄張り)はラクチョウ(有楽町)から勝鬨橋まで」というような科白があり、ちょっと広すぎないかと思ったが、上に書いた5人だけでなく、街中に登場する街娼たちは、皆んな赤の河西都子が仕切っているということなのか(それを表す場面はほゞないが)。確かに彼女の劇中の役割は、野川と同等レベルの重要さであり、ルックスはあまり魅力的とは思わないが、非常に強い演技で印象に残る。この女優が本作以外にほとんど出演作が無く、消息を聞かないのはどういうことだろう。いやこの人が本作で、もう一人の主人公と云っていい役に抜擢されている経緯も知りたい。ラストも彼女が絡むショットだ。このクレーン上昇移動で、星条旗が翻っているオープンセットから撮影所の外の風景まで映しこんでしまう画面の提示にも唖然とする。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・冒頭、闇屋で芋を売る男は長弘。
・宍戸の戦友の父親で刺青彫師の玉川伊佐男。
・和田浩治が兄貴と呼ぶ、白いスーツの男は野呂圭介。
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