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[コメント] 牛乳屋フランキー(1956/日)

中平康の監督デビュー4作目。しかしデビュー作『狂った果実』と同年公開の映画だ。前3作はどれもシリアスな作品だったが、本作は全きコメディ。ただし、今見ると笑える場面はほとんど無い。コメディ演出の難しさを痛感することになる。
ゑぎ

 とは云え、勿論今見ても面白さを見いだせる部分は多々ある。まず最初に書いておきたくなるのは、矢張り、フランキー堺の二役−主人公の六平太とその祖父(長州のお祖父ちゃん)が同一画面で映っている二重露光ショットの完成度だろう。アバンタイトル、長州追分駅での2ショット−対面する2人を真横から映したショットでは、かなり違和感を覚えたのだが、後半、東京の場面でのこの手の画面の見せ方は、もう驚嘆するレベルだ。

 六平太のフランキーが、東京の親戚−坪内美詠子の牛乳屋に勤め始めてからの場面では、配達シーンを繋げて沢山の脇役、ゲスト出演者を見せていくシーケンスが実に楽しい。多くは下で備考として記そうと思うが、このシーケンスで登場する重要な人物は。秀峰荘というアパートの前に、映画スターの丹下キヨ子と共にいる助監督−宍戸錠と、彼が南郷さんのところへ手紙を届けて、と六平太に頼み、南郷邸に行くと現れる、西郷隆盛みたいな沢村国太郎と、その娘−南寿美子、あと、マンションの一室に配達すると牛乳風呂に入っている利根はる恵と、彼女のパトロンらしき柳谷寛と云えるだろう。坪内と南がダブルヒロイン、利根と柳谷が悪役で、沢村と宍戸もプロット展開にからむ人物と云っていい。

 もう2人、重要な人物がいて、それが六平太と共に坪内の牛乳屋で寝起きする小沢昭一市村俊幸だ。この2人は柳谷が経営するブルドッグ牛乳に寝返ったり、回し者であることが判明したりし、プロットをかき回す役割を担う。小沢の場面では、フランキーと自転車で競争するシーンのスピード感の造型は特筆すべきだ。途中で止まって、あっかんべーをする小沢。フランキーは止まらず走って西浦和まで行ってしまう。市村は、大学生だが「狂った太陽」という小説を書いていて高利貸しでもある得体のしれない男。彼には妄想シーンが2つあり、いずれも、斜め構図で表現されて鬱陶しいが、1つ目の葉山のヨットハーバーのシーンでは坪内が水着姿で登場する。本作撮影時点で40歳頃の坪内だが、なかなかに綺麗に撮られている。実は、この頃の彼女は、オバサン役のイメージだったので、本作におけるヒロイン扱いにも私は驚いた。

 また、坪内と共に南もヒロインであると書いたけれど、それは宍戸との恋愛譚という部分であり、全編通じて、主人公のフランキー堺に恋の場面が無いというのも本作のちょっと寂しいところだ。森永牧場へのお得意様ご招待バスツアーの場面では、フランキーと中原早苗が皆にミルクを配り、2人で唄うというミュージカル場面があり、この牧場の画面造型も実にいいと思うが、こういった中原との中途半端な場面があるだけに、余計にフランキーの恋愛譚の欠如が惜しい感覚になる。ちなみに、この牧場の場面で、唐突にインディアンの矢が刺さり、書き割りの岩山や馬が現れ、映画のロケ現場と錯綜する。インディアンの一人は小沢の二役で、丹下と岡田真澄が主演スター。助監督は宍戸、監督は市村の二役だ。ディレクターチェアの背もたれに「巨匠」と書かれているのが可笑しい。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・冒頭近く、坪内と会話する森永乳業の配達員は青木富夫

・フランキーの配達シーンで、出窓にスリップ姿で現れる美女は竹内洋子。赤ちゃんを起こされたと怒る婦人−原恵子田中筆子は声が出ないお婆さん。派出所の警官で杉幸彦。泥酔した男性−キノ・トールを牛乳と一緒に家へ配達。泥酔した男の妻はドクトルチエコ。高台のバラックには小野田勇水の江滝子が水の江ターキーという名の映画スターで、その女中が中原だ。中原は、ターキーが男か女か私にも分からないと云う。利根の階下の住人−黒田剛。道で子供が泣くシーンの保母さんは小園蓉子

・ブルドッグ牛乳の店員の中に柳瀬志郎がいる。

・国税局の職員役で織田政雄西村晃が出てくる。

・宍戸の手紙の文中に『狙われた男』『太陽の季節』『狂った果実』『夏の嵐』『飢える魂』など日活映画の題名が埋め込まれている。

(評価:★3)

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