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[コメント] 男装(1935/米)

確かに急展開過ぎたり、ほったらかしにされる人物がいたり、俄には首肯し難い心移りが散見されたりと、プロット展開上の難はあるのだが、見るべきは、キューカーのマルチ撮影+アクション繋ぎの演出と共に、ジョセフ・オーガストの撮影だ。
ゑぎ

 例えば、英国へ渡る船の中の霧の表現。甲板にケイリー・グラントが登場する際の仰角カット。船中のカフェでエドマンド・グウェンとグラントが会話するカットは、ほとんどパンフォーカスじゃないか(後景の他の客たちも鮮明に映っている。『市民ケーン』の約5年前だ)。

 アクション繋ぎで云うと、キャサリン・ヘプバーンデニー・ムーアがコールマン髭を描くシーンで、ヘップバーンが反転するカットをアクション繋ぎで繋ぐ美しい表現。ヘップバーンが海岸の洞窟で婦人の服を盗み、女に戻って、フブライアン・エイハーンの家へ行ったシーンのアクション繋ぎもなんて見事なんだろう。屋内で、フルショットからニーショット、そしてバストショットと繋ぐタイミングに、もううっとりしてしまう。

 あと、画面造型では、終盤に二回出て来る海岸の断崖を使った、俯瞰の見事さも指摘すべきだろう。二回ともに、展開は唐突過ぎると思うが、私なんかは、画面造型に見惚れてしまってプロットの瑕疵は全く許してしまうのだ。

 もう一つ、窓の使い方も書き留めておきたい。まず、開巻はマルセイユの波止場の外観に続いて、ビルの窓外から撮ったカットにヘップバーンが登場する。これが既に宣言しているかのように、ヘップバーンには、窓を絡めた印象的なシーンがいくつもある。留守中の伯爵宅の窓から忍び込もうとするシーン。エイハーンの部屋の窓からの出入り。ラストは列車の窓とヘップバーン。そして大笑するグラント。やっぱりジョージ・キューカーは素晴らしい。

(評価:★4)

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