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[コメント] 早乙女家の娘たち(1962/日)

これは良い映画だ。久松静児作品をもっと見なくてはと思わせる。冒頭は、画面奥にガスタンクの見える風景。手前に原っぱと林。林の中を、左から右へトラック横移動する。ラストカットも同じ場所を反対の(右から左への)移動ショット、という円環処理。
ゑぎ

 また、プロローグとエピローグ(と云うほど明確な位置づけではないかも知れないが)ではいずれも巡査の松村達雄が出て来て「早乙女」の読み方について確認するシーンがあり、さらにエピローグの彼が実に愉快な役割りを担うのだ。そして、上にも書いたラストカットでも、松村巡査が画面奥に映り込んでいる。何とも良い情感創出じゃないか。

 タイトルの姉妹は、長女−津島恵子、次女−香川京子、三女−白川由美、四女−田村奈己だが、その下に末っ子でまだ中学生の鶴亀(つるき)−大沢健三郎がいる。父母は亡くなっており、長女の津島は嫁いで外に出ているので、早乙女家は4人家族。主役は香川だ。香川が洋裁と編み物の内職をしながら家をあずかっている。もっとも白川は保険会社に勤めていて、田村も高校を出て保母見習いとして近くの幼稚園で働き出しているので、2人は家計にお金を入れてくれている。こんな状況の中で、末っ子の鶴亀−大沢が姉たちを引っかき回す役割りを演じ、香川と大沢の二人が主役と云ってもいい位置付けだと思う。また、同時に、香川と白川の二人の恋愛譚も織り込むという盛り沢山の作劇なのだ。

 それに、最初の方にも書いたが、要所の移動撮影を含めて画面造型も端正でいちいち感心しながら見た。特に、何度か出て来る2階の窓にいる人を表の道側から仰角で見せるショットの挿入にパンチがある。早乙女家の2階の窓や、鶴亀の学校の担任−小林桂樹のいる下宿の窓。あるいは、香川と白川が駅前のお汁粉屋に2人で入る際の、暖簾をくぐるショットがカッコいいのだが、こういう何でもないような普通の所作を、実に上手く撮っていると思う。ただし、このお汁粉屋のシーン中に挿入される香川のフラッシュバック(シネスコの左右の両端をぼかした画面)については、私は、本作中ではイマイチだと思う。

 あと、四姉妹の描き分けは実に上手くいっていると感じるが、津島がまだ36歳頃なのに、既に後年のようなお母さんキャラに成り切っているのが見事なのと、やっぱり、田村のお転婆娘の造型が本作の一番のチャームポイントと云うべきかもしれない。本作の田村、良く動くのだ。科白も所作も全部面白い。

 また、脇役のキャラ造型についても書きたい人がいっぱいるが、多くは下に備考として記載して済ますとして、こゝでは特に、2人の人物について特筆しておこう。一人は、香川の縁談の相手役−石田茂樹で、その登場は写真だが、もうほとんどコメディアンのように写っており、実物の出番も完全にコメディパートだ。彼が、唐突に早乙女家を訪問するところから始まり、白川と恋人の佐原健二、続いて、小林桂樹が立て続けに家にやって来るシーケンスの畳み掛けの演出も本作の大きな見どころだろう。あともう一人は、刑事役の織田政雄だ。この人は、いつも頼りない人物ばかりを演じている気がするが、本作では、人あたりは優しいが、なんでもお見通し、といった感じの刑事役。終盤の良いところで出て来ることもあり、実に美味しい役に感じられる。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・早乙女家の最寄り駅は旭ヶ丘駅。駅前が2回ぐらい映る。架空の駅か。津島がバスを待つのも、京王バスの旭ヶ丘というバス停。渋谷行きに乗る。津島の夫は小泉博。子は男児が2人。長男は両親に似ても似つかない太った子。

・白川の同級生だったという運送屋の青年は船戸順。田村と仲がいい。ネリカン−練馬鑑別所に入っていたという不良の少年から守ってくれる。この不良少年は、どんぐり三太。いい顔してる。

・白川の会社の同僚で横山道代。彼女の明るいキャラもよく合っている。

・香川のフラッシュバックで登場するのは児玉清

・八百屋のにいちゃんは加藤春哉。花売り屋台のオジサンは沢村いき雄

(評価:★4)

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