[コメント] 佐久間ダム(総集編)(1958/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
迫力の岩波記録映画。連発される発破が景気よく、いろいろな重機の活躍に心躍る。子供の頃観ていたら工事現場マニアになったに違いない。右も左も電源開発に積極的だった当時、環境破壊など危惧する声は極く少数だったのだろう。左翼だってレーニン「国家とは電力」でイケイケだったのだ。川本三郎は本作を学校から観に行った由。
アニメで施工方法を説明してから実写が始まるのでとても判りやすい。天竜川を迂回させる仮排水トンネルを掘って川の流れを変えてから、ダム建設。重機では私はロッカーショベルというのが気に入った。土砂吐き出しの後片付けで、ショベルに掬った土砂を方向転換せずに頭越しに持っていき、背後にいるダンプへひょいと放り込むのだ。法被着た工夫が笛吹いているのは『黒部の太陽』の辰巳柳太郎さんを彷彿とさせる。
しかし、青天井の現場の掘削あたりから描写は恐ろしくなる。最も困難と評される両岸の基礎掘削は、階段状の斜面に重機を運転して発破かけ。ショベルカーがとんでもない高所で作業しているのを見ることがあるが、ここではその連発。とんでもない粉塵にマスクもない。命綱で手作業で岩を切って下に転がす繰り返し。下では重機での岩石拾い。空になった川床でも掘削。
基礎掘削、岩盤にコンクリート打ち込み、砂採取して八種類にふるい分けられてベルトコンベアで運搬、砂利も運搬。セメントは千屯入りのセメントサイロに蓄えてトラックで運搬。氷や冷却水つくって作られてバッチャープラントで全部練り混ぜてコンクリ製作、バケットで運ばれる。バケットが宙を舞う様はゴダールの『コンクリート作戦』と同じ光景。ここから落とされたコンクリを工夫数名がバイブレーター片手に手作業で固めている。屋外でも熱かろう。そうしてダムの丈はどんどん高くなる。
あとは並行して、巨大な型枠を移動させるコンクリ流し込む取水口工事。直系4.8mの筒を溶接して45度に挿入する水圧鉄管工事。垂直の軸にローターなど円筒が吊り込まれる発電機(4台)工事。50Hzも60Hzも発電できる由。等々。ひび割れをセメントミルクで埋めるジョイントクラウトという作業もしている。
水没する村の最後の、鬼の被り物まで登場する賑やかな秋祭りの様子。子供が多い光景がいかにももったいない。祭りは移転地で保存されたのだろうか。「人々の離散とともにこの祭りも滅びていくことでしょう」というナレーションは大きなお世話という気がする。民家は壊されている。よく貯水池から遊覧船で湖底を観ると民家が残っている光景があるが。国鉄飯田線は付け替えられてトンネルばかり。この民生部門は一瞬で終わる。
水を張るのを湛水と云う由。一度に貯水すると60日かかるので、分割して湛水。並行して電気設備など完成。「水は刻々と水没部落の跡を沈めていきます。水没家屋242戸云々」と砕けた水車など映し、驚いている小動物を記録している。発電テスト成功で昭和31年4月23日発電開始。最後に「尊い犠牲」と云っているが、その内容は語られないのは酷いことだ。TOMIMORI氏のコメントにあるように、外国人労働者の酷使は闇に葬られたのだろうか。場当たり的な劇伴は昔のドキュメンタリーっぽくてショボい。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。