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[コメント] 10番街の殺人(1971/英)

冷淡でカフケスクな事実描写も、皆はまり役な俳優たちも素晴らしいのだが、いろんな枝葉を切り落としてサスペンスのみ扱うスタンスに、週刊誌的な視点が感じられる。『絞殺魔』から魂だけ抜いたような映画。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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エヴァンス事件はイギリスの死刑撤廃の発端となったほどの大事件だが、本作はエヴァンスやクリスティの来歴や、政府・マスコミの裁判への対応など、外に描くべきことが幾らでもあるにも関わらず、サスペンスのみに焦点を絞った。戦前の殺人を冒頭に加えることによって、今度も来るぞ来るぞの判りやすい娯楽映画にした。

結果、失われたのはエヴァンスやクリスティの造形の厚みであって、エヴァンスは気の毒な無学者、クリスティは変態猟奇殺人者でしかない。エヴァンスの属した労働者階級や、クリスティの性欲の成り立ち等々についてさっぱり判らないまま映画は終わる訳で、世の中怖い人がいるねえという週刊誌の読後感に似た感想しか残さないのだった。この点、猟奇的な主人公の内側に踏み込んだ傑作『絞殺魔』に激しく劣る。

もし事実通りの作品と謳われていなければ、とても面白いサスペンスとして満足できたのだろう。それと、エヴァンス婦人殺害時における大工の突然の訪問、あれは何の意味があったのだろう。裁判の証言台に立つのだろうと、ずっと待っていたんだけど。

(評価:★3)

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