[コメント] ミッドサマー(2019/米=スウェーデン)
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前作『ヘレディタリー』は初の長編作品ながら抜群の表現力でトラウマを植え付け、個人的なホラー映画の殿堂入りを果たしたほどの名作だと思っていて、そのアリ・アスター監督の新作となれば行くしかないわけです。
ジャンルは同じくホラーと括られていますが、当の監督は「恋愛映画だ」と公言しているようですね。本作をそう表現するとはどう考えても頭がイカれてますね。これほど嫌な映画を見たのは久しぶりでした。
端的に言うと「こんなホラー映画は見たことがない」という衝撃ですね。間違いなくこのパッケージがホラーコーナーに並んでいたら異質でしょう。ホラーのイメージを覆す、明るいけど怖いというのは革命的だと思います。
なぜ明るいのかといえば本作の舞台となるのがスウェーデンのある民族の90年に一度の儀式によるもので、それが夏至祭と呼ばれ白夜に行われるからですね。一日中日が照らし続けるため、基本暗くなることはありません。辺りは自然に溢れ、鮮やかな花や民族衣装に囲まれ、とても怖さとはかけ離れているわけです。
しかし、怖いという感情が終始とどまることなく続くというのが本作の凄さです。 白夜という設定を用いた作品として『インソムニア』という作品もありますが、人間は朝になると日が昇り、夜になると日が沈むというサイクルの中で生活しているため、そのリズムが狂うと徐々に頭が狂ってくるのでしょうね。 さらにはその土地の文化にも従わなければならないという状況に置かれるわけです。そもそもの発端が彼らが卒論のテーマに、ということもあってあの地を訪れたわけで、正直あの怖さの根底にあるのは「非常に嫌なんだけど怖いもの見たさ」なんだと思っていて、人間の直感的にヤバいとわかっていても気になってしまうという心理をうまく利用しているなと思いました。
とは言え、あの儀式やら因習やらを目の当たりにしたら誰もが底知れない恐怖を覚えますよね。特に強烈なのがエテッシュテュッパンと呼ばれるあれなわけですが、細かい一挙手一投足にさえ不安を感じますからね。(とどめはおばちゃん達に囲まれるあれですね笑)この辺りはアリ・アスターの見事な演出力だったと思います。
演出という点ではやはりカメラワークとかは前作も含めてこだわりを感じる人ですし、本作も画面が歪んだり逆さを向いたりと工夫がありました。 また、各タペストリーも不気味だけど芸術的だなとか思ってましたが、それが伏線になっているというのも見事でした。 そういう芸術さで言えばやはり色彩の鮮やかさも一つの絵画のようか美しさがありますし、構図としてもこだわりがあり、監督が映画をしっかりと芸術の一つだと捉えている感じはひしひしと伝わってきます。
恐ろしく嫌な映画でしたが、監督の実力がこれで本物だと知らしめる作品にはなったかなと思います。
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