[コメント] 遊星よりの物体X(1951/米)
そして、その搭乗者だったと思しき生物(氷の中の死体)を観測基地に運び込むというプロセスを通じて、飛行機とその機内の場面がコギミよく反復して描写されるのだ。尚、ワタクシ的には、後半もこの飛行機が活躍する場面が出て来ることを期待していたのだが、ほゞそれは裏切られた。ただし、ワンカットだけ、吹雪の中で駐機されているショットがあり、機首にフラダンスをしている女性の絵が描かれていることがはっきり分かる、というのはキャッチーな(ユーモアのある)演出だ。
と、最初に航空映画の側面について書いたのは、もうお気づきの方も多いと思いますが、やはり、本作はホークス印の横溢する作品である、と云いたいということです。それは単にスクリプト上の(何を描くかの)好みだけでなく、撮影現場の状況としても、主人公のケネス・トビー−ヘンドリー大尉役は、ホークスがほとんど演出をしていたと云っているらしく、「物体」役のジェームズ・アーネスは、ネイビーが監督していたと発言しているとのことで、これらを踏まえると、矢張り、ドラマ部分(登場人物たちの会話シーンなど)はホークスのディレクションで、主に特殊技術を見せる場面はネイビーが担当していたのではないかと推測できると思う。
実際、私が最も「あゝホークスらしいなぁ」と感じた部分は、トビーとマーガレット・シェリダンの最初の対話シーンで、彼女がずっと笑いながら(単に笑顔で、というだけでなく笑い声を上げながら)喋っている演出だったり、トビーのチームでのやりとりなど複数人物の会話場面における、科白の速度や他の人物と科白を重複させるディレクションだ。あるいは、トビーがシェリダンの部屋に入る前に「今回は何もしない、手を縛ってもいい」みたいなことを云った後に、後ろ手に縛られて椅子に座らされているトビーが繋がれる、といったユーモア溢れる演出。これなんかもスクリプトで表現されていたかもしれないが、見せ方は撮影現場の演出の良さだろう。ちなみに、身動きができないトビーにシェルダンがまるで焦らすように軽いキスをし、トビーが「日本式拷問だ」と云う。全体、本作のヒロイン−マーガレット・シェリダンの、男たちと対等にやり合う造型こそ、ホークスの刻印と云いたくなる。他にも、若者−例えば飛行クルーのボブ−デューイ・マーティンからベテランにいたるまで、チームメンバーが皆プロとして対等の関係を保ち、常にジョークを飛ばしながら仕事を進めている、といった描写にもホークスの特性を指摘できるだろう。これらは、スクリプト以上に画面の特質だと私は思う(多分、スクリプトもホークス好みに書き直されているのだと思うが)。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・記者スコッティはダグラス・スペンサー。開巻及びエンディングは彼のシーン。
・観測基地の科学者たち。指導者キャリントンはロバート・コーンスウェイト。他の科学者では、最初の3人の犠牲者の1人がエドュアルド・フランツ。一番背の高いリンカーン大統領みたいな風貌の博士はジョン・ディークス。
・トビーの部下の2人の少尉にロバート・ニコルズとジェームズ・ヤング。バーンズ伍長はウィリアム・セルフ。『駅馬車』のテーマを口笛で吹く。・信号銃について「使えるのか?」とダグラス・スペンサーから聞かれたロバート・ニコルズは「クーパーのヨーク軍曹を見た」と返す。
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