[コメント] タクシーハンター(1993/香港)
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三級片というのは香港における18禁映画を指す用語で、主にエロやグロやバイオレンスの度が過ぎた映画のことだ。この映画は低予算で画面もひどく貧相だがやってることはかなり高級で、たとえば『マンチェスター・バイ・ザ・シー』と内容は大差ないのだがハッキリ言ってはるかに面白い。それはアンソニー・ウォン演じる主人公を、狂った殺人鬼に「しなかった」脚本が非常に優れているためだ。
主人公の男は真面目で優秀なサラリーマン。小心者だが愛妻家。対するタクシードライバーは与太者ばかりでホントひどい。妻子を殺され怒り爆発、どこぞのタクシードライバーをブッ殺して動転して帰宅して、着衣のままシャワーを浴びながらふと微笑む… ここはストロングスタイルの役者アンソニー・ウォンだからこそ成立する、本当に素晴らしい場面だった。
これに味をしめた男はタクシードライバーを殺してまわる。しかしたまたま、良心的なドライバーに出会う。彼は感激してチップあげちゃうのだ。さらにボコッたン・マンタがおとり捜査の刑事だったと知るや、病室に侵入してまず謝るのだ。これらはまったくもって筋の通った、理性的な態度だ。もちろん彼はタクシードライバーを闇雲に殺すし、面を割られたン・マンタも殺そうとする。しかしそもそも「狂人」とは、24時間100%狂った人間のことなのだろうか。彼の言動の節々には知性、理性、時に人へのやさしさやいたわりさえ見てとれる。彼の怒りはまったく正当なものだ。復讐は被害者遺族の権利だ。法律とか知るか。ただ彼は復讐の対象が「タクシードライバー全員」という、ちょっと大雑把だったのがまずかっただけだ。
この映画が、こんな映画なのに本当に真剣に人間と向かい合ってるなあと感じたのが、主人公を説得する刑事ユー・ロングァンの「お前の力になる」というセリフだ。これには泣かされたねえ… 絶望の闇にまたたく光だよ。直後に映画はバツンと適当に終わるんだけどねえ…
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