[コメント] 夕陽の挽歌(1971/米)
確かに題材的にこれで3時間はキツいとも思う。しかし、これはこれで、しっかりした技術で作られた良い西部劇なのだ。まずは本作も、シネスコの構図を活かした良いショットが沢山ある。
開巻は邦題から夕陽かと思ったが、朝日か。狼のロングショット。斜面に二騎が現れるシルエット。朝の牧場への導入部だ。主人公はウィリアム・ホールデンとライアン・オニールで、仲の良い牧童。二人のバディ・ムービーと云っていいだろう。ホールデンはもうすぐ50歳、オニールはその半分の歳という設定だ。彼らの雇い主(牧場主)はカール・マルデン。その子供は二人いて、兄がジョー・ドン・ベイカーで弟がトム・スケリットという良い配役なのだ。ちなみに、マルデンがポーチの椅子に座っている場面で、ベイカーとスケリットと会話する部分があるが、兄弟二人の性格の違いが分かる場面であり、同時にシネスコを活かした素晴らしい縦構図ショットだ。
ホールデンとオニールは、仲間の牧童が暴れ馬のために事故死したことをきっかけに、現状を打破したいと思うようになり、銀行の金を強奪し、メキシコへ逃げることを計画する。こゝで、ジェシー・ジェームズ・ギャングのような銀行襲撃方法は1ミリも考えず、緩い略奪方法を実行するのが良く、全編、このような緩さが魅力と云いたくなる。この犯行と同じ夜の、トム・スケリットが娼館の前で銃をぶっ放すシーンもいい。ワタクシ的には、この娼館のマダム(メイベル)−レイチェル・ロバーツとスケリットとの対決場面のぶっ飛んだ演出が、前半のハイライトだと思う。
銀行の金には牧童たちの給料が含まれていたことと、他の牧童に示しがつかない、ということで、マルデンは、息子二人に、ホールデンとオニールの生け捕りを命じ、逃亡・追跡劇が始まる、というプロット展開だが、しかし、あくまでも緩ーく描かれるのだ。前半最後は、雪の中での野生馬の捕獲馴致シーンで、馬の左前肢だけロープで使えなくし、オニールに耳を噛ませながら鞍を乗せ、ホールデンが跨る、といった手順が興味深かった。ホールデンが騎乗して馴らすシーンはスローモーションのショットを二重露光で繋ぐ。馬もジャンプするが、オニールもジャンプしたり、転げたりする。ちょっと長いが幸福なシーンとなっている。
後半になると、いくつかの銃撃シーンや怪我を負ったオニールの厳しい逃亡シーンも出て来るのだが、カードゲーム(ポーカー)の場面から始まる銃撃戦は、なかなかの迫力だ。ただし、銃撃場面はいずれもスローモーションが多用されており、ペキンパー(『ワイルド・バンチ』が1969年だ)の影響が感じられる。また、スローと共に、後半になって、ズームの使用も増えたように思う。前半も、パンしながらの緩やかなズームアウトなどはあったが、後半になって、急なズームインなんかも複数現れるのだ。ちょっと演出は雑になったように思う。しかし、エンディングはいい。特に、ラストショットのクレーン上昇移動、しかも、複数の被写体を縦構図に配置したロングショットになるカメラの動きにはしびれる。結局、フィリップ・ラスロップが主役の映画だったように私なんかには感じられるのだ。
#備忘でその他の配役等を記述します。
・マルデンの妻(兄弟の母)は『決断の3時10分』のレオラ・ダナ。
・銀行員にジェームズ・オルソン、その妻にリン・カーリン。
・娼館で泊っている保安官は、ヴィクター・フレンチ。テレビドラマ「大草原の小さな家」のエドワーズおじさん。
・オニールの仔犬とロバを交換してくれるベンはモーゼス・ガン。テレビドラマ「少年カウボーイ」(1974年にNHKで放送)の牧童頭だ。
・羊飼いのオヤジでサム・ギルマン。オニールとポーカーでやりあうラフはウィリアム・ラッキング。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。