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[コメント] 精神0(2020/日=米)

「患者がいちばん苦労している。ずっと我慢し続けている。あんたは頑張った。よく耐えた」
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







物欲をゼロにしなさい、という先生のカウンセリングが冒頭にある。自分がしたいと思うことは大切だ。しかし空を飛びたいとか、雨を止めるとかは、できるはずがない。思い通りにならないものだ。我々は欲ボケしている。そういうのを諦めて、ただ今に感謝しなさい。

仏教のお坊さんのようだ。精神科医は本邦ではそういう役割を果たすのだろう。また、先生の講演で、患者を褒める件がある。自分が鬱になった。食事が摂れない。周りから食事しないと駄目だと何度も云われる。判っとるわい。摂りたくでも摂れないんだ。患者がいちばん苦労している。ずっと我慢し続けている。患者にも云う。「あんたは頑張った。よく耐えた」。この逸話は気づきを与えてくれた。

このふたつの切り口で、観客は続く、先生の痴呆になった妻との生活を見ることになる。先生は苦労しているが、先生は奥さんが「いちばん苦労している」と知っている。散乱したキッチンのテーブルが夫婦の分業を物語って饒舌。犬が鳴いていると家から外に出る奥さんに茫然とさせられる。墓地でぎこちなく手をつなぐ夫婦が美しかった。捨てカットに登場するワイルドな野良猫に不思議な存在感があった。

終盤、映画は訪問した饒舌なお婆さんの語りで夫婦の人生を回想するのだが、この婦人のキャラが魅力を欠いたのが惜しい。ここで先生が「共生をテーマに生きてきたんだから」とこれからの人生を位置づけるのは、云わずもがなだった。ここは明らかなミスで、こんな箇所はカットすべきだっただろう。

先生の引退に患者たちは困惑している。マニュアル通りの診察は2分で終わるのだと。先生は携帯番号を教え、金銭も与える。この先生は僧侶なのだと思った。

(評価:★4)

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