[コメント] はちどり(2018/韓国=米)
屋外での主人公ウニのカットが顕著だが、絞りを開けて撮っていることが多く、後景のボケ味の美しいカットが多数ある。なので優しく見つめる視点に感じられるのだろう。突き放したカメラの視線には見えない。この演出が、映画の感情を醸成している部分は大きい。
描かれる内容は、ウニと他の登場人物全員との亀裂だ。男尊女卑の父。殴る兄、夜遊びをする姉、声をかけても振り向いてもくれない母(このシーンって夢?)。夜遅くに訪ねて来る伯父さん(母の兄)。親友には売られる。ボーイフレンドも自分を守ってくれない。唐突な後輩の心変わり。そして、漢文塾の先生との別れ。でも、みんな良いところ、他者を思やるところもある(しかし、父と兄を泣かせる演出ってどうかと思ったが)。
前半のボーイフレンドとのキスシーンは特筆すべきだろう。キスをした後、二人ともツバを吐く、というのがメッチャ可愛い。あと、右耳下のしこりの件は、どう展開されるのかと、観客をとても不安にする効果があり良いと思う。もっと怖い展開、難病モノに突入するのかと思ってしまった。しかし、入院してからも見舞いに来る人たちとの美しいシーンを作ることに繋がっている。
思い返してみると、ウニ一人、あるいはウニと誰かが道を歩いているシーンが思い出される、本作も道を歩く人の映画だったということに気が付く。中でも、最も良いシーンは、漢文塾の先生と、二人で夜帰る場面だろう。この後の公園のような場所で、並んで座って会話するシーンも重要なシーンだ。見舞いのシーンでの、自立を促す示唆にも繋がっている。
ウニを優しく見つめる筆致は、名作然とした口当たりの良さに与している、と思う反面、例えば「不良」としての描写−喫煙、万引き、異性交友等については、生ぬるく中途半端な描き方に感じる。親友とのトランポリンを、仰角の高速度撮影で撮ったカットが、ワザとらしく挿入される、といった処理も凡庸と思う。
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