[コメント] 素晴らしい哉人生(1924/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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「愛あるところに希望と勝利がある」と字幕。飢饉の暴動で死者が出ていた1923年までのドイツ。ベルリンは戦争で大砲が撃たれ、政治家や悪徳業者が字幕で指弾される。そしてポーランド難民の描写。大勢が路上やバラックで寝ている。食事はじゃが芋、それから蕪だけ。変な法律の主題が登場して、それは宿は法律により部屋一杯に詰め込むべしというもので、インガキャロル・デンプスターとお婆さんヘレン・ローウェルはポールニール・ハミルトンを含む老教授アービル・アンダーソン一家と同居。
隣室の元旅芸人ルドルフルビノ・レーンはロシア人ふたりと相部屋になり、ベッドを奪われて椅子で寝る。当時らしく悲劇と喜劇が一体化した作品で、ルドルフはコメディを一手に抱え、箒片手にダンス踊り。同居人の「陰気な」ロシア人はコメディnスキップも相手にしてくれないと嘆く。言葉は通じない。彼の勤め先のクラブで踊子は「紙製の衣装」で踊っている。
兵隊から戻ったポールは船舶工場、毒ガスの後遺症で苦しみ、インガは看病。体躯をSの字に撓らせて苦しんでいる。インガはデパート勤め、空腹のあまり食事の妄想を見る。ふたりの貧乏デート、大河の土手で、故郷ポーランドへ向かう帆船を眺める画がとても美しく哀しい。
ポールが芋畑を耕しインガに求婚するが、蕪しか食えずに病気になったお婆さんは認めない。そこにインフレ、恐慌。200万人が失業とある。食料配給のチラシに続いて路上で女同士が食料を奪い合っている。そして有名な肉屋の件。ひと切れ900万マルクと知ったインガは貯金を叩いて1200万マルク持って行列に並ぶ。行列は押し合いで大騒動で警官が整理し、肉屋の門前には黒板が掛けてあり、現在の料金が刻々書き替えられ、あっという間に肉ひと切れの値段は予算をオーバーする。インガは口開けて唖然として、次に肩を竦めて、涙を拭いて、列を離れる。
この件がクライマックス。続くポールのイモ栽培、八畳間ほどの小さな家建ててインガに見せて、インガは手を叩いて周りを一周してキス、と云う展開は空想的なロマンス。物語の生理としては正しいのだろう。隣人から預かった雌鶏が卵を産んで楽しい食卓、ルドルフが手風琴弾いてダンス、叔母さんは自分の結婚衣装をインガのために直す。
収穫したじゃが芋をカートで運んでいたら、悪徳業者に間違われて強奪され、「同じ労働者よ」とユニオンカードを見せる件がある。インガはこれは二人が結婚するために必要なのだと説得するが、暴漢たちはどうせ俺たちはケダモノだ、そうさせられたんだ、戦争と地獄でケダモノになったんだと、じゃが芋全部持って行ってしまう。ふたりは地べたに座り込みしばらく動けない。相手もまた難民なのだろう。ふたりは、悪くすれば自分らが暴漢の立場に陥ったかも知れないという観念に襲われたはずだ。本作はポーランド難民ばかりが出てきてドイツ人は背景に退いている。
映画は一年後、新居で賑やかに暮らしているふた家族を描写して終わる。真面目なインガ造形が記憶に残る。
本作は字幕がとても多い。グリフィス作品としても最多の部類だろう。あれほど様々な作品を撮ったのだから、いろんなことを試していったのだろう。本邦ではサイレント映画は字幕が少ないほど芸術的との評論が戦前まかり通っていた訳だが、あれは俳句趣味、私小説趣味と同じ根っこなのだろう。
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