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[コメント] あのアーミン毛皮の貴婦人(1948/米)

クレジットにはプレミンジャーの「亡き師匠への敬意と称賛の印として」監督ルビッチとだけ表記されている殆どプレミンジャー作品。舞台はベルガモ公国。最後もルリタニアものかと思いきや、イタリアのベルガモという都市のことらしい。しかし本当だろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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情報は劇場パンフによれのだが、本当だろうか。映画は1861年と指定して始まるが、この年はイタリア統一、イタリア王国成立の年で、本物のベルガモは統一運動に功績があった由。一方、ハンガリーも1848年のハンガリー革命以来、1867年のオーストリア=ハンガリー帝国成立まで内政多忙で、とても遠征などしていないだろう。

この物語は、史実と正反対の出鱈目な冗談ではないのだろうか。しかし、どういう種類の冗談なのかは教養及ばずさっぱり判らない。なお、2020年、ベルガモはイタリアのなかでもコロナ禍の被害甚大で、人口の数パーセントが亡くなったとのこと。

ハンガリー軍のベルガモ王国侵攻が300年の時を隔てて繰り返され、ハンガリー大佐とベルガモ王国の公爵王女と夫はそれぞれ同じキャスト、肖像画から抜け出た旧王女が再び王国を救う。♪野蛮なハンガリー人にどうやって立ち向かおう と亡霊たちは唄う。王女は300年前は大佐をナイフで刺し殺したのに対して、今回は愛情で撤退させる。

入城してさっそく「あの画の女が肩隠して素足を出しているのはなぜだ」と気にする大佐、これは彼の祖先が刺殺されたときの相手の格好だからだ、と徐々に判明する。小物のナイフの弄びは再三にわたりいちいち笑える。結婚初夜で城から撤退してゲリラ化した夫はロマの振りして大佐に取り入る。ヴァイオリンを弾けるはずと試されてじらしてツィゴイネルワイゼンを弾きまくるのが素晴らしい(手相占いでバレる)。置時計の時刻む人形もいい。

大佐の誘いに王女は応じず、荒れてごろ寝した大佐の前に時計戻して肖像画の王女が現れる。ここでもナイフ構えてもて遊んでキスして、続くドレスでのカンカン踊りが本作のベストショットで客席バカ受け。続くテーブルの上から中央階段、果ては空を飛んで天井を破る一連の縦構図のふたりのダンス。このシークエンスが素晴らしかった。

幾らか下品で泣き顔がイタズラ小僧のようなベティ・グレイブルはオッシー・オスヴァルダやミリアム・ホプキンスが連想され、ルビッチらしいコメディ顔という感じがする(セックス・シンボルだったらしいけど)。Wikiにはルビッチは最初、ジャネット・マクドナルドを希望したとあるが、彼女はもう40を回っていたけどよかったのだろうか。

終盤は蛇足。王女は大佐の後を神父連れて追いかけて結婚するのだが、ヴァイオリンとかいろいろ頑張った亭主と離婚してしまうのは可哀想だろう。この直前に大佐と従僕とで交わされる「部下は大佐からもっと叱ってほしいのです」みたいな軍紀向上談義も辛気臭い。大佐の城撤退で終われば良かった。ただ、このダラダラ終わらない感じは、キャストスタッフがルビッチとお別れしたくないとグズっているようなニュアンスがあり、そう考えれば感じさせるものがあった。

撮影開始8日後にルビッチは亡くなり、またもプレミンジャーが引き継いだ。だから殆どが彼の演出なのだが、クレジットには彼の「亡き師匠への敬意と称賛の印として」製作・監督ルビッチとだけ表記されている。この原作は本作でハリウッド三度目の映画化。1919年のオペレッタが原作。原作者のひとりルドルフ・シャンツァーはイタリアでゲシュタポに捕まって44年に自殺させられている。

(評価:★4)

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