[コメント] グンダーマン 優しき裏切り者の歌(2018/独)
遥かに臨む発電所の不気味。むき出しの露天採炭場の荒涼。巨大な採掘マシーンの威容。社会主義経済を支える武骨な風景が印象的だ。グンダーマンは労働者として、詩人として、すなわち個人の意志として「個人」のための理想社会の実現を頑固に信じた若者なのだ。
そんな生真面目な“労働詩人”が、知らず知らずのうちに国家という組織の論理にからめとられ「個人」を犠牲にしてしまうという矛盾。一心かつ不器用なグンダーマンの恋愛感情もまた倒錯し、略奪という矛盾を生む。傷つくのも、傷つけられるのも、いつも“あなた”と“私”という個人なのだ。
この優しき頑固者は、政治の理屈ではなく生活の生理を生きている。党の幹部に政府の怠惰を正面切って抗議するのも、党の行動指針から外れた者を密告するのも、自分や仲間への素直さの表れなのだろう。生理は理屈では割り切れないし説明できない。だからグンダーマンは「告白」はするが、それ以上のことはしないのだ。
ロジカルでないぶん、私はこの男を信用するし、その想いを大切に思う。
グンダーマンはドイツでは有名なシンガー・ソングライターだそうだ。どの楽曲も美しく、優しく、力強い。主演のアレクサンダー・シェーアは自らギターを弾きすべて歌っているという。音楽映画としても素敵だった。
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