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[コメント] 少女暴行事件 赤い靴(1983/日)

自分を律する術を知りようもない80年代の青春とも云えないような青春が、遠点からハードボイルドかつ慈しみを持って眺められる。方法論にブレがなく淡々と衝撃に向かい、撮影も撮りたい画があって撮っているのが伝わってくる充実作。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭、駅のロッカーで丸見えのなかパンツ履き替える井上麻衣からして危うさが充満している。両親は離婚して東京で水商売の母と二人暮らし。友達はおらず便所で煙草、リボン短く結んだヤンキーに絡まれるぐらい。ディスコでは別れた男に絡まれるぐらい。東京が好きとは見えない。週末は古河に戻って友達と遊び、父を訪ねる。周りは進学の話題ばかり振り、アタマがスパケティになりそうだ父さん決めてよと応えるばかり。

二対二の暴走族は花火で遊び、クラクションはウェディングマーチ。中卒らしく「ドレイ工場」と呼ぶパン工場勤めの小泉ゆかが連れてきた後輩島崎加奈子を儀式だと云って強姦させたりする。多幸感も暴走している。ハイになる四人と泣き続ける島崎。詰まらない弱者の弱い者イジメであった。

小泉は井上の彼氏の中根徹を寝取っていて(橋の下から高校生の河原のランニング眺める青姦も印象的。小泉には関係のない世界なのだ)、彼は井上をバイクで迎えに来なくなった。井上はこのときの二人揃っての応対で気配を察知して別れる。父もバーの女と関係を持っていて、古河にはもう戻らない。小泉は財布ももたず電車に飛び乗り、井上に謝ってもう最後ならふたりで東京で遊ぼうと冒険が始まる。

井上の母の金盗んでディスコ行ってホテル泊まって、中年捕まえて売春して(ここだけは反逆のコメディがあるが苦い。中年は何かを代表させられ罰せられている)買い物して化粧して、そんなことしかすることないのだが、それなりに愉しいのか。新宿うろついて、小泉は地元に戻ったら盆踊りクイーンだ、あんたには東京音頭があるねと井上に云う。マンションの窓から東京球場眺めて東京音頭聞いていた井上の、都会の孤独とかぶる。これは名シーンだった。

女子高生殺傷事件の貼紙に続いて新宿のゲーセン。井上はナンパされ海辺で殺される。小泉はずっと寝ていて、寝ぼけて海辺を歩いている二人を微笑ましく見つめ、朝起きたときはクルマはなく、置いていかれたようねと笑って赤い靴の遺体に気づかず去る。犯人の顔も殺人光景も映されない。ラストで無限遠点から眺める実録の方法が見事に完結した。

刹那的な愉しみに事欠かない古川と東京を正に浮遊しているふたり。特に幸福でも不幸でもないのだろう。死も軽い。父も母も友人も事実を知って哀しむだろうが、当人は生きていても死んでもどちらでも良かったのではないかという茫漠たる感想が残る。映画はドライに描いているが、時間が経つにつれ彼女らを慈しんでいたのだという感慨が沸き上がった。

古河の鄙びた町は80年代の地方都市の懐かしさが漂っている。駅はまだモルタル造り。井上の父は利根川の周遊ボート屋だが客は見えない。木造の実家も縁側の先が河川敷まで広がり、地方らしい。小泉が新利根川橋も完成したし工業団地の誘致も進んでいると井上の母に雑談で紹介している。撮りたい画があって撮っている丁寧な撮影がとても印象に残る。

82年の「新宿歌舞伎町ディスコナンパ殺傷事件」が題材。時効を迎えている。事件の被害者は中学生で、もうひとりは軽症を負っており、そこはフィクションが強調されている。危ないから夜遊びなどするなという警告の映画とも取れるように作られているが、無論そんな主張ではない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)太陽と戦慄[*]

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