[コメント] ボイリング・ポイント 沸騰(2021/英)
高級レストランを舞台とし、約90分間全編ワンカットという趣向の映画。こういう趣向も、今やそれほど珍しくないが、私は移動撮影と長回しは大好物なので、どんどん挑戦して欲しい。本作も、強烈に緊張感を維持する出来栄えに奏功していると思う。
しかし、当然ながらデジタルカメラで撮影されているワケだが、ワザと画質を落としているのか、冒頭から全編ヌケの悪い画面だ。16ミリみたい。だから、店の中の内装も、料理も、全然ゴージャスには見えない。これも計算(というか作り手の好み)だろうが、私はヌケの良い画面が好きだ。
また、ズームの使用はなく、ほとんど前進移動のカメラワークだ。手持ち(ステディカム)で人物の後ろを追いかける画面が多い。逆に後退移動は少ない(カメラを抱えて後ずさる撮影になるので)。背中側から追いかけて回り込む移動で構図を決める。これにより、店舗内の空間は分かりやすく見せている。
上で移動撮影と長回しが好き、と書いたが、一方で、映画の王道は、切り返し(ショット/リバースショット)だとも思っていて、90分間ワンカットで移動とパンだけでの人物のやりとりを見せられると、切り返しによる緊張感創出も希求してしまうのだ。
尚、少ないが、店舗外の場面もあり、洗い場担当の従業員(ジェイク)がゴミ出しのため、店の裏側へ出て、道に停まっている自動車へ入って女とやりとりする部分など、良いアクセントになっている。この作劇自体は、ちょっと取ってつけたようではあるが。また、主人公アンディ−スティーヴン・グレアムと、客で先輩シェフのスカイ−ジェイソン・フレミングとの関係も、いや、アンディの帰結についても、演劇的に過ぎると感じられる。好みは別れるところだろうが、全編ワンカットの映画は多分に演劇的な作劇になる。
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