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[コメント] すずめの戸締まり(2022/日)

響かない。 *『君の名は』と『天気の子』についての些細なネタバレもあります。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私には『天気の子』は『君の名は』ほどおもしろくなかった。理由は単純だ。天気の子の主人公たちは設定がちょっと非日常的過ぎた。生きるのはたいへんかもしれないけれども、彼らは最初から学校にも親にもとらわれてはいなかった。どこまでも自由に見えた。なればこそ私にはそこがつまらなかった。あまりにファンタジー過ぎる。

私は当然のように中学には通えない子だった。だからこそ、若者らしく不自由な思いを抱くことはありつつも、それでも学校そのものは受け入れて通い謳歌する子どもたちの話が好きだ。まぶしい。素直に憧れる。そこで知り合った友人たちと協力して大人や社会と対峙するような話なんて大好物だ。うらやましくてしょうがない。私もそんな青春を送りたかった!と思う。

だからこの映画の序盤で主人公の友人が登場したとき、私はとても嬉しかった。映画への期待値がぐんと跳ね上がった。『君の名は』で見たようなキラキラした場面がこの友人たちとまた展開されるのかと嬉しくなり、ゆえに、その後ずっとモヤモヤし続けてしまった。

主人公が制服を着た女子である以上、学校のシーンがある以上、彼女にはもうちょっとあの友人たちと仲良くしていてほしかった。旅先でしょっちゅうSNSをチェックする時間があるなら、その合間に少しでもよいから彼女たちとも連絡をとってほしかった。泊まり先のアリバイにしかされないなんてひどい。

あの長文LINEを送信してくる心配性なおばさんが、アリバイの泊まり先を聞いて一応納得したということは、たぶんすずめは以前もその友人宅に泊まったことがあるのだろう。そうでなければあのおばさんのことだ、その友人の保護者に一言お礼を言うので電話を替われくらい言うに違いない。電話をガチャ切りされたとて、自ら泊まり先に連絡するかもしれないくらいだ。そんな勢い、口調だった。それでもどうにか収めてくれたということは、その友人の名に信頼があったということだ。それくらい仲がよいと認めていたのだろう。

だからこそ、朝イケメンとすれ違ってあれこれあって学校に戻ってすぐの時点で「早く話せよ!」と思った。そんな時間はなかった? そうかもしれない。それでも旅先で交通機関をつかっているあいだに隙間時間はあったはずだ。スタンプひとつでもいい。無事だと知らせる報告をしてほしかった。富士山のことより友人に思いを馳せてほしかった。そもそも友人たちからの連絡はなかったのだろうか? それもおかしな話だ。だってお弁当の途中で仲のよいクラスメートがいなくなり、そのまま消えてしまったんだよ? 私ならパニックだ。心配でしょうがない。たぶん探す。嘘偽りない現役女子高生の私なら探す!

最後、高校生のすずめが4才のすずめに「いつかあなたもひとを愛し、ひとから愛されるようになるよ!」みたいな話をするところがあった。いきなりド直球に「たぶん作者が伝えたかったメッセージのひとつ」をヒロインに口にさせるのはちょっと…とも一瞬思ったが、これは若い鑑賞者に向けてのあえてなのかもしれないと考えることで許容できた。そもそもその内容自体は、本当にその通りだと思う。立派なメッセージだと思う。私だって若いひとたちには未来を信じてほしいし明るいものだと思ってほしい。生きていれば、愛情であれ友情であれ、何にも代え難い思いを知ることもあるだろうし、そうあってほしい。でも小っ恥ずかしくてそんなこと周りの子どもたちにはとても伝えられないので、映画を通してこんなことを言ってくれるのは本当にありがたい。作者さんありがとう!って心から思う。

とはいえ、おばさんとイケメン以外すずめのことを心底愛してくれるひとなんていたか?と思ってしまった私に、すずめのその言葉は響かなかった。むしろ鼻白んでしまった。ちかちゃんとバーのママ? 彼女たちはすずめを受けいてはくれたけど、それでもあの時点はまだ一過性のひとでしかない。一晩だけの付き合いだ。ワンナイトの愛情だ。ミノルなんて論外だ。彼はおばさんを好きなだけで、すずめのことなんてたいして気にしてなかった。たぶんおばさんの付属品としか思ってないんじゃないかな。そして何よりあの映画の上では、残念ながらすずめのことを心配する友人はいなかった。いたのかもしれないが、特に登場はしなかった。これはつらい。我が子を見ていても、自分自身のことを振り返ってもわかる。あの年代の子はね、友だちが大事だよ!親より友だちなんだよ!

だからすずめには、もっと宮崎の友人とも仲良くしていてほしかった。つながっていてほしかった。それがあれば、すずめの言葉にはもっと真実味があったのではないかと思う。

4才のすずめが欲しいのは、ワンナイトの関係ではなく、もっと深い愛情、いつもそばにいて見守ってくれるひとの存在だと思う。近くにいて寄り添ってくれるひとだと思う。一緒に前を向いて進んでくれる仲間だと思う。

だからあのあと宮崎に行って、よい友人と知り合えるとよいなと思う。ともに成長し、小さなことでも相談できる、急にいなくなったりしたら心配して探してくれる、そんな友人たちときっと出会えますように。

(評価:★3)

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