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[コメント] 青春の殺人者(1976/日)

前半と後半でベクトルは違うのですが、とにかくどーっと疲れる作品です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ATG作品は情念がこもったような作品が多く、内容も意味不明なまま終わる事が多いので、観る時はある程度の覚悟が必要。少なくとも一本観終える時にはどどっと疲れてしまうものばかり。

 その疲れというのは、「一体これはどういう意味なんだ?」と考えることと、あまりにも生々しい排泄シーンが出てくるためで(性行為もATGでは一種の排泄行為にされることが多い)、かなり精神的に負荷を強いることになるから。

 本作もそう言う意味で言えば、確かにATGらしさは持っているのだが、単なる露悪趣味とは言えないパワーを持っていて、ATGらしさを残しつつも、かなり情緒的な作品に仕上がっているのが特徴だろう。

 物語は前半と後半に分かれる。

 前半は普通の家が、ほんの僅か歯車が狂っただけで家族の殺し合いに発展してしまうことが冷静に描かれているのだが、単なる家庭崩壊が描かれているのでは無かろう。本作で描かれているのは、歪んだ形での家族愛。しかもその家族愛は社会的な意味でのものではない。父親が子供に持つ愛は、社会的な自立であり、他の人間から後ろ指指されないような生き方をしてくれる事。一方母親が子供に持つ愛は、抱え込む愛。対して子供が両親に抱く愛とは、甘えなのだが、父の愛は甘えを許さず、時として殺意へと転換し、母の愛と子の愛が合致してしまうと、それは胎内回帰へと容易に転換してしまう…そう言う意味で前半部分は観るのがもの凄くきつかった。観たくないものを鼻面にぶら下げられてしまった気分。その部分だけでどっと疲れ切った。

 対して後半はその殺人が記号になっていき、話はどんどん観念的になっていく。結局ギャーギャー騒いでる内に終わってしまったのだが、何を考えているのか分からない原田美枝子の姿が妙に落ち着かなくさせる。前半の濃すぎる市原悦子の姿に充分対抗していた。

ATGらしいと言えばそれまでだけど、その中でしっかり個性を見せてくれた長谷川監督には拍手を送りたい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)TOMIMORI[*]

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