[コメント] すべてうまくいきますように(2021/仏=ベルギー)
ほぼ出ずっぱりでソフィーマルソーの思いの変遷と結末に向かう段取りが描かれる。少女時代の父との回想や悪夢も挟まれるが、彼女や妹(ジェラルディン・ペラス)の感情は抑制的に演出される。とても上品な語り口なのだが人の死を扱って淡泊に過ぎる気もした。
姉妹は父親(アンドレ・デュソリエ)の自死を手伝うという難事を引き受けても感情をあらわにして取り乱したりしない。生きる意味と人生の楽しみは等価だとする享楽的成功者である父のもと、裕福な家庭に育ったブルジョア姉妹の性向とプライドなのだろうか。
本作の主題ではないのだが、富裕者の自死と貧者の自死について思いがめぐる。富裕者の自死とは、もはや世の中になすべきことがないという達成感や、やりたいことが自由にできなくなった自分への決別としての安楽死なのだろう。それは希望のための積極的選択だ。一方、貧者の自死とは、自分では解決できない困難により精神をさいなまれ、現実社会から逃避するための自殺であり、それは絶望のための破滅的選択だ。
作中、姉妹から「クソ野郎」と呼ばれ排除される父親の友人が出てくる。貧困層に属するその中年男は、彼女らの父親にひとかたなる思いを抱いており、ある"行動"をとったのではないかと示唆される。私は、この男の方にこそ優しさを感じシンパシーを抱いてしまっうのだ。
あとは離婚して精神を病んでいるらしい姉妹の母を演じるシャーロット・ランプリングの虚空を見据る沈黙の凄みが印象に残った。
本作は2021年製作とのこと。オゾンはゴダールの死(2022.9)についてどんな思いなのだろうか。
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