[コメント] すべてうまくいきますように(2021/仏=ベルギー)
主要人物はエマニュエル−ソフィー・マルソーとその父−アンドレ・デュソリエ、及び妹のパスカル−ジェラルディーヌ・ペラスの3人と云って間違いないと思うし、マルソーを中心に3人ともに素晴らしいパフォーマンスだと感じるのだが、しかし、何人かの脇役が鮮烈に印象に残る。私はその点を強調しておきたい。
一人は、シャーロット・ランプリング演じる母親で、彼女も病身で精神状態が安定していないという設定でもあり、少ない出番ながら、その表情の厳しさが強烈に心に刺さる。あと、もう一人、ランプリングに勝るとも劣らないレベルの女優が出ていて、それがスイス人女性役のハンナ・シグラだ。こちらは、ランプリングとは対照的な、優しい(でもなんだか怖くもある)笑顔。しかも、この二人の女優に対するディレクションは、とてもリスペクトを感じられるものだと私は思った。
本作のカメラワークは非常に素直なもので、奇をてらったような構図や動きはほゞ無いと云っていいと思うが、そんな中で目に留まったのが、2回ある、人物からカメラがパン及びティルトして静物を映すショットだ。2回とは、ランプリングから右へパンして彫像へ、及びハンナ・シグラからティルトアップして壁の絵画へ、というショットなのだ。これがリスペクトのエビデンスだ、とまで云うつもりはないか、しかし、特別なショットが使われている、ということは云えるだろう。マルソーがハンナ・シグラとの別れ際に、思い返したように頬にキスする演出にも、役柄を越えた敬意を感じる。
あと脇役をもう二人あげる。一人は、お父さんのボーイフレンドで、ストーカーのような描かれ方でもあり、姉妹がクズ男と呼ぶジェラール−グレゴリー・ガドゥボワ。この人は、近年の仏映画には欠かせない俳優になってきていると思う(『オフィサー・アンド・スパイ』で主人公と決闘をするアンリ少佐を演じた人で、他にも主演作も日本で公開されている)。彼の退場ショット(エレベータに乗るショット)の茶目っ気がいい。また、彼が終盤のドタバタを導くのだ。
いやこの終盤のドタバタの加減も、私は実に良いと思っていて、特に、お父さんとマルソーのパートナーのセルジュ−エリック・カラヴァカの二人が、アパートのエレベータの中で、もつれるように倒れる場面が好きだ。こゝは、品の良い演出だと思う。このエリック・カラヴァカは、映画博物館(日本語字幕の表現)で働いているというような会話があったが、これは、シネマテーク・フランセーズのことだろう。お父さんと二人でブニュエルの『忘れられた人々』の話をするというのも嬉しい。この会話が行われる、レストランの場面も良い場面だ。
気になった点を一つ書くとすると、マルソーの少女時代の回想や夢のフラッシュバックは、不要じゃないか、と思いながら見た。私は、こんなフラッシュバックなら、無い方がすっきりすると感じる。しかし、最終盤、救急車の中での、父と姉妹の別れの場面においても、ほとんど泣かせの演出をしない、というのも私の好みだし、さらに、最初に書いた、落ち着きの良いバストショットで暗転する、というのは、最高の終わり方だと思う。
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