[コメント] バビロン(2022/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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デイミアン・チャゼル監督の新作。元々興味はあったのですが、実際かなりの賛否両論が飛び交っているみたいですし、シンプルに3時間超は長い。とまあ懸念点はありつつも、行ける時間も作れたし節目であることも後押しして、久しぶりのIMAX環境で鑑賞してきました。
本作がテーマとしているものは映画の歴史です。だからこそ見に行かねば、という使命感も働いたのですが、冒頭から下品なのが無理な人には受けつけないでしょうねというシーンのオンパレードでしたね。
1920年代の映画というカルチャーの黎明期。ただ、映画産業は盛んであり、関係者たちのパーティーが開かれるわけですが、まあ文字通り豪華絢爛、酒池肉林の圧巻の景色。もう酒にドラッグに性欲に、おしっこを浴びてる人なんかもいましたね。ミュージシャンは音楽を奏で、人が踊り狂う。とにかくやばい世界。この直前には象の糞なんかもありましたし、これだけで嫌いな人は嫌いだと思います。 個人的には音楽やカメラ回しなんかが監督の色が出ていて楽しめましたね。音楽は全編を通して良かったですし、カット割りの印象が強かったですけど、逆にあの長回しは圧巻ですよね。そういう演出はやはりさすがの手腕を感じました。
そしてその中で一際異彩を放っていたのが、マーゴット・ロビー演じるネリーですね。まあ一言言わせてもらうなら、「お前は脱がんのかい!」とは思いましたが笑 でもそれも含めて他とは異なる存在であることを印象づけていたように思えました。
ただ、この作品が描いているのは映画がサイレントからトーキーへと変遷していく時代そのものであり、一番の収穫としてはその当時の撮影の様子を見れたのは良かったですね。 サイレント時代はたしかに音は入りませんが、あんなに騒がしい環境で撮影していたというのは新鮮でしたね。怒号や指示が飛び交ったり、槍が飛び交ったり、カメラは壊れまくるし、死人も出る。 そんな混沌とした状況でもやはりスターは圧倒的な輝きを放っているんですよね。それがネリーであり、ブラッド・ピット演じるジャックといった一世を風靡したスターであり、カメラが向いた瞬間にスイッチが入り、場の空気を掌握してしまう感じ。そこまでのアバズレ感とか酒乱感が一切吹き飛ぶかのような圧倒的存在感。素晴らしかったですね。
しかし時代がトーキーに変わり、声というのが一つのスキルとして見なされるようになってくると撮影スタイルは一気に変化してくるんですよね。静寂を徹底し、歩く時はゴム底の靴を強要するとか、マイクはバミったピンポイントしか音を拾わず動かすのには30分もかかるとか。くしゃみ一つであんなにモメるかねってくらいブチギレてますし、逆にシーンを撮り終えた後の歓喜ってのも新鮮でした。
その新時代の中で忘れ去られていくのがトーキーによって弾かれてしまった連中で、特にネリーなんかはその場の即席で舞って注目を集めていた舞台女優みたいな輝きを放っていたけれど、やれ立ち位置だ、やれ声量だと縛られては輝きもくすぶっていく一方で、まさに栄枯盛衰なんですよね。それでも彼女はトッピングではなく、メインのアイスクリームであろうとするのは一人の女優としての生き様であり、またそれが生き残れない理由でもある点は歯痒かったですね。
それこそ舞台ではいけないというのはジャックの言葉にも表れていましたね。たとえ低俗でも映画で輝きたいと切望するが故に、生きづらくもしているわけで、やはり最期の哀愁はたまらなかったですね。 自分がすでに終わっていることを悟り、B級映画しかチャンスはもらえず、そして嘲笑を聞く日々。それでも彼はスターであり、ボーイの「今まで一番チップをくれたのはあなた」ってセリフもありましたが、スターとして生涯を終える決断をした切なさは刺さるものがありました。
ネリーのラストも憂いがありましたね。結婚するという一世一代のラストダンスをする感じ。カメラが回り、そこに映るのはやっぱり女優なんですよね。とにかくこれらの哀愁はまさにチャゼル監督らしかったです。
そしてそんな映画に携わってきたマニー。家族と再び訪れて、娘に「飽きちゃった」って言われる感じはまさに今や未来の人たちの過去に対してのスタンスであって、自分たちのやってきたことって何だったんだ、と思わせるわけですが、そこからのラスト。 いやー、やりたい意図は伝わりますけどね。明らかにあそこに現代の映画まで持ってくるのはやり過ぎかなって思いました。 正直ここが一番しっくり来なかったですね。回想しているのはあくまでマニーなわけで、マニーが気づく=観客が理解するでいいと思うんですよね。あれはあからさまに我々に向けての「映画は不滅!」的メッセージであって、それもセンスいい感を出してドヤ顔してそうなのとか想像するとかえって冷めてしまう自分もいました。
あ、しっくり来ないでいうと、見世物小屋のくだりは蛇足だと思います。というか基本的にいいシーンはあってもやっぱり長過ぎです。歴史の変遷期を描くことを踏まえても長かったなあ。 そして基本汚い笑というか誤解のないように言っておきますが、演出を褒めましたが不必要な下品演出はやっぱりいらないですよ。作品なんて監督のオナニーだと言われたりもしますが、共感の得られないそれの押し付けなら評価できませんし、って下品さが伝染してる、反省笑
とにかくタイトル『バビロン』が象徴するように映画黎明期の栄枯盛衰の話なので一見の価値はありますが、再見はしたくないような好き嫌いが分かれる作品でした。
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