[コメント] Winny(2022/日)
留置場はまだしも、弁護士事務所や検事局も、窓からの光だけのような明度。節電タイムか。勿論作り手は題材に合わせてワザとやっているに違いない。私は、ローキーは映画の特質(大げさに云えば映画にしかできないこと、そう、テレビでも演劇でもできないこと)だと思っていて、好きな画面だが、さすがに本作にはちょっと違和感を覚えた。
さて、東出のキャラ造型について。序盤はアホかと思うが、徐々に本当のアホだと分かってくる。と云えば語弊があるだろうが、一般的な意味で常識を持ち合わせていない人なのだ。勿論、抜群に頭の良い部分と両面が描かれているけれど、情緒の面でも不安定な(怖い顔をしていたと思ったら、めっちゃ明るくなったりする)、分裂したキャラ造型だと感じられる。それは、作り手の意図にそった結果なのだろうか。また、弁護士事務所の女性事務員(?)−木竜麻生が、幇助という言葉の意味を聞くのにも呆れてしまったが、どうも彼女の役割は、難しい言葉の意味を観客に伝えるために用意された、綺麗だが無知な女性のステレオタイプのような気がして来て可哀想になった(これは多分意図したものでないだろう)。
と、違和感から先に書いてしまったが、この映画、よく出来ていると感じられる部分も多々ある。まずは、もう一人の主役と云うべき担当弁護士の三浦貴大はハマり役だろう。最近はちょっと小悪党みたいな役ばかりを見ていたので、そのギャップということもあるが、彼の今までの印象を覆すような出来ではないか。弁護士なので、理詰めを重んじるが、東出と通じる子供っぽさみたいなところも描かれているのがいい。東出の「星や宇宙が好き、空や飛行機が好き」といった嗜好に共感する。伊丹を離陸した旅客機のバンク角の話で盛り上がる場面など。
あと、構成的な部分で、愛媛県警の吉岡秀隆(及び金子大地)のプロットとのクロスカッティングが、本作の特徴だ。私としては、東出や三浦たちのプロットとどう交差させるかを、私なりのテーマ(それをずっと考えながら見るもの)にしながら見た。しかし、結局、それぞれ新聞記事やテレビのニュース番組で意識している、というだけに終わる。吉岡が脅迫電話を受けて、そのまゝほったらかし、というのもどうかと思うが、しかし、この吉岡のパートがあることで、本作に深み厚みが出ていることは疑いのないところだろう。
また、フラッシュバックが一回だけというのがいい。鉄格子の向こうの星空から、星を見る少年に繋ぐ処理。少年時代、書店でプログラム・コードを立ち読みし、電気店の店頭のマイコンで星を作る場面。最初の星空の造型はイマイチだが、この後、何度も回想処理を入れられそうな要素はあるのだが、ことごとく回想を回避していくので、フラッシュバック嫌いの私はすっきりしながら見た。あるいは、東出の姉−吉田羊が終盤になって初めて登場する、という構成もなかなかシブイと私は思う。それまでに東出が電話する場面などもあるが、まったく登場させない(写真で見せるだけで、やはり回想シーンもない)というのがいい。
それと、一審判決後、伊丹空港の近くで三浦と東出が会話するシーンで、二人の後景に旅客機が何機か映り込んでいる画面だとか、上にも書いた三浦と吉田羊との会話シーンが、後景のボケ味のいい望遠レンズで、しかも固定ショットの切り返しもばっちり決まる、というように、終盤で充実した画面が出て来るのは良い点だと思う。さらにエンドロール中、金子勇本人の記録映像が挿入される効果はとても大きい。
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