[コメント] リフレクション(2021/ウクライナ)
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本作は、画面手前と画面奥が別空間である、ということが、強烈に意識されている。全ショットではないかも知れないが、ほとんどのショットはそうだと思う。多くは手前と奥の間に窓を挟む。ガラスなりアクリルなり。透明な窓を隔てゝ別の世界がある、という画面だ。窓以外にも、ドア、拷問台、焼却炉、橇すべりの丘、あるいは、画面奥に障害馬術やポロの練習が映っていたり、といったショットもある。
特に、冒頭から数ショットは、窓のある画面だ。覚えている限り記述すると、ファーストカットは、アクリル板を挟んだ画面奥で子供たちがペイント弾のサバイバルゲームに興じる場面、手前で大人たち、主人公の医師セルヒーとアンドリーが会話する。続いて手術室。手前は手洗い場所。窓の奥で、蘇生措置が行われる。次はドライブインシアター。セルヒーと娘。フロントガラスの向こうにスクリーンがあり、映像が動く。雨が降ってきて、全然映画が見えないのが面白い。お父さんは、戦場に行かない方が役に立つと娘は云う。そして、夜の部屋。ベートーベンのレコードのメンテナンスをするセルヒー。奥には大きな窓。夜景。煙突の赤い光が目立つ。プレイヤーにかけて針を落としたところで、カットが変わり、続けて唐突に戦場の救急車の中。このショットも後部席からフロントガラスの向こうの窓外を撮ったものだが、道に迷ったのか、検問で止まると、敵の襲撃に会う。Uターンして、横転するまで。これは凄いショットだ。
上記までは第一部、というべき部分で、続いて、ロシア軍の捕虜となったセルヒーが拷問を受ける場面、及び、医師として拷問に加担する描写になるが、このパート(第二部というか)は目をそむけたくなるような強烈なシーンが続く。しかし、このパートの最初のショット(こゝはドアを挟んだ内外で異空間を感じさせるショット)で、固定されていたカメラがいきなりステディカム移動する、といった演出があり(セルヒーが階下へ連れて行かれるのをカメラが追う)、第一部には無かったカメラの動きということで、パートが変わったことを観客に意識させるのだ。また、強烈なシーンと共に「ロシア連邦人道援助」と書かれたトラックが出て来る、緩い場面のアイロニーにも愕然とさせられる。
そして三つ目のパートは捕虜交換でキーウに帰還したセルヒーと娘との二人の生活が主要場面。娘が窓に向けて足をかけるかたちで逆立ちするショットで、足の位置の窓に、鳩が激突する造型はCGか。この鳩を火葬にする場面が重要だろう。焚き火の炎が二人の顔に反映する。鳩がぶつかったのは、窓に空が反射《リフレクション》したからだろうという科白(私は違うと思うが)。仏教では「体はただの器、魂は別」。キリスト教は「体があるから復活すると考える」と云うセルヒー。小供聖書を破って焚べる娘。
この後の、野犬とスタンガンを使った場面(2回ある)の演出にも驚かされるが、特に二度目のセルヒーを襲う野犬のショットは見事だ。画面奥からポロの乗馬が助けに来るのだが、よくこんな画面設計をすると思う。全体に、前作『アトランティス』の方がスペクタクルなショットが多かったとは思うが、本作の画面造型の奥深さの方が、刺激に満ちているという意味で、勝っていると私は思う。
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