[コメント] ロストケア(2023/日)
こういう作品を見た際、もし、シーンを時系列に繋いだなら、これだけ面白くなるだろうか、と考えてしまう。愚問なのは分かっているが。本作の場合だと、松山ケンイチが父親の柄本明を介護するシーンから始まる構成、いや、少年時代に公園などで父と遊ぶ場面からか。
ケアセンター八賀と書かれた自動車。つづら折りの坂道を俯瞰の縦構図で撮ったショットがいいと思った。梅田さんという老人の介護に向かう、松山と峯村リエと加藤菜津。遅れて家に駈けつける梅田さんの娘の戸田菜穂が、登場から情緒不安定に描かれている。その後、坂井真紀が介護していたその母親の通夜のシーンや、居酒屋で新人ヘルパーの加藤から「私の憧れです」と云われる松山を見せて、ギャップをお膳立てする。これがまだまだ続くのかと思っていると、早々に事件を差し込んで、ミステリー仕立てにする構成も上手いと思う。居酒屋のシーンで、峯村に、坂井による殺人の可能性もあるという冗談を云わせるのも上手い。
ただし、梅田さんと団センター長−井上肇の2人が死んでいた、というこの事件の見せ方(カット割り)は、少々混乱していると感じる。もっと分かりやすく示せるだろう。もっとも、長澤による聴取が描かれるうちに、何が起こったのか紐解かれるけれど。彼女の取り調べシーンだと、松山の再逮捕後の導入部分が、タメがあって良い演出だと思う。三面鏡のように、長澤の姿が四つぐらいの鏡に映るショット。あるいは、テーブルにも長澤が反映し、彼女が分裂するイメージをティルトで見せる。こういった長澤の多面性や、さらに云えば松山との相似の描写については、彼女にも認知症で介護が必要な母親−藤田弓子がいたり、長年会っていない父親の存在といった部分もあるけれど、画面造型ということでは、ラスト近くの接見室における、2人(長澤と松山)の切り返しの演出が象徴的だろう。常套だが、アクリル板へのそれぞれの反映の画面造型だ。
無粋だが、気になった部分も書いておきます。主演者2人による力のある場面が続く中で、ちょこちょこと臭いシーン(演出)が現れる。例えば新人ヘルパーの加藤が、センター内で錯乱するシーン。あるいは、長澤が母親の藤田から頭を撫でられるシーンも私の感覚では臭いと思う(こゝは一つの泣かせどころでしょうけど)。そして、判決が云い渡される前の松山に、戸田が叫ぶのが決定的に私は宜しくない演出だと感じる。叫ばせずに、普通の声で呟く、それが松山にも長澤にも聞こえる、ぐらいで充分じゃないか。
あと、柄本の演技は確かに鬼気迫る造型で助演賞モノですね。その他、坂井とずんのやすの挿話もとても清涼効果があっていい。坂井が「救われた」と云う部分が強調されない扱いなのも、よく考えられているところだと思う。全体、前作の『老後の資金がありません!』との演出基調の差異には驚かされる。演技過剰のディレクションをもう少し抑えてくれていれば、年間ベスト10級の作品(私的)になっていたのに惜しい。
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