[コメント] 妖怪の孫(2023/日)
死んじゃたじゃないか
妖怪と呼ばれた政治家(岸信介)の家系と彼らの地元を分析して、この国に妖怪が巣くった原因とその本質に迫るドキュメンタリーを期待していた。一応、晋三の生い立ちに由来するコンプレックスや学生時代から露呈していた上わべだけ取り繕う気質、さらに地元下関での神戸製鋼との関係や岸信介とは対照的な政治信条を持っていた父方の祖父で衆議院議員だった安倍寛の存在には触れられる。だが、そこから先は掘り下げられない。私はこのあたりにコトの本質があるような気がするのですが。
こちらの期待には応えてくれず話は国民周知の「安倍のダメダメエピソード」の羅列に終始して総花的に拡散するばかり。一向に撃つべき的が定まらない。安倍政権がどんな政治をしてきたか十分知ってますからもういいです。ついにはアニメーションを使って、あんたたち国民の心に巣くっている「不寛容」「自己責任論」「猜疑心(過剰な警戒と防衛意識)」という悪癖こそが妖怪なのだだと言い出して、責めるべき矛先をこちらに向ける迷走ぶり。これはアジア·太平戦争の責任を曖昧にした「一億総懺悔論」と同じ発想ですね。
あと、ドキュメンタリーにアニメを取り入れる手法は、歴史的な経緯や複雑な物事の背景を整理して観客に伝えるのには効果的だと思いますが、本作のように「あんた気づいてない(知らない)だろうから教えてあげますよ」的に上から目線で使用すると小馬鹿にされてる気分になり最悪です。
作中でアベノミクスは、とりあえず"やってる感"があればいいんだと安倍自身が陰で言っていたと揶揄していましたが、このドキュメンタリーも「とりあえず批判してます感」しか伝わってこないなと思っていたら、あろうことか監督自身も薄々それに気づいていたようで、最後の最後に監督自身の独白が入って「泣き言」を聞かされたのには仰天。こりゃダメだとひっくり返りました。
余談です。私が観た映画館はもともと年配の女性客が多いのですが、本作はいつにも増してお婆ちゃん(杖を使ていらっしゃる方もちらほら)が多数来場されていて、そのなかにお爺ちゃんが少し混じっているという状況でした。映画が終わるとパチパチとまばらな拍手。なんだかニッポンのお婆ちゃん、お爺ちゃんたちは心優しいというか、甘いというか・・・「こんな人たち」が戦後の社会を作ってきたんだなぁ、と・・・・
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