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[コメント] 波紋(2022/日)

これも傑作。しかし本作はビスタサイズ。シネスコで撮って欲しかったと思う。シネスコで撮った庭の波紋(砂紋)が見たかった。だが、本作も、やっぱりよく考え抜かれた構図ばかりだ。
ゑぎ

 開巻は足の裏のフォーカスイン(足の裏の皺も波紋か)。オフで、いびきが聞こえる。足は光石研で、筒井真理子のミタメだった。早朝のベッド。筒井の顔の前に夫−光石の足がある。普段からこういう寝方をしているのか、と思わせる。

 原発事故のニュース。水道水は飲まないで、雨にも当たらないで、と筒井は云う。息子の磯村勇斗は気にし過ぎ、と笑っているが、夫の光石は気にしていたということだろうか。光石は庭の水道、青いホースからの水を出しっぱなしにしたまゝで失踪する。彼の青いホースの水出しっぱなしは終盤にも反復される。

 というワケで、本作は水の映画だ。と書くとタイトルからしても当たり前だと云われるかも知れないが、備忘も兼ねて水にまつわる道具立てを上げておこう。劇中の登場は前後するが、何と云っても、庭の枯山水は、水を使わないで水を表現している、という皮肉な面白みもあって本作を象徴しているだろう。あとは、水道水とミネラルウォーターの対比もプロットを操作する。冒頭の、寝たきりの舅のために作る、水道水を使ったお粥だとか、光石には水道水を与え、筒井は緑命水を飲むといったクダリ。磯村が連れて来た、6歳年上の聾者の彼女−津田絵理奈には、緑命水を与える、とか。その他、水にまつわるモノを列記すると、メダカの鉢、ウイスキー、プール、サウナ、更年期障害でのホットフラッシュの汗、特別な(多分高価な)緑命水のスプレー、亀の水槽、抗がん剤の点滴注射。この際大きな水晶も加えてもいいか。そしてラストの日照り雨。ただし、実をいうと、ちょくちょく挿入される、水の波紋イメージに人物を立たせて会話を反復させる趣向は、私は鬱陶しいと感じた。

 さて、もう少し特記したい部分を書くとすると、まずは、緑命会の集会場面は、全部面白いと思った。祈りの言葉もいいが、歌と踊りが秀逸だ。最初に筒井とキムラ緑子が二人きりになって会話するシーンで、イマジナリーライン越えの切り返しがバッチリ決まることも記載しておこう。あと脇役では、何と云っても、掃除婦の木野花だ。歯に衣着せぬ科白と口跡が実にいいのだが、私は特に「ストレートに差別するね」と笑いながら云う部分が好きだ。

 そして、光石の高額治療が始まった辺りから、意地悪(仕返し)感覚が薄まることもあり、ちょっと失速するようにも思ったが、しかし、最終盤で大きく盛り返す。このラストを仔細に書くのもネタバレだと思われるので、ボカシながら書くけれど、2人の男性が庭の波紋を気にしながら歩くのでバランスを崩してこける演出から始まって、日照り雨の中、筒井を映し続けるシーケンスショットは、凄い移動撮影だ。多分クレーンを使って移動し続けているのだと思うのだが、これは間違いなく映画史上に残るショットだろうと思いながら見るラストには、とても高い満足感がある。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)シーチキン[*]

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