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[コメント] アルマゲドン・タイム ある日々の肖像(2022/米)

1980年のNYクイーンズ。6年生のポール−バンクス・レペタが主人公。始業日か、担任の先生の自己紹介。ポールは似顔絵を描いて回す。見つかって前に立たされる。
ゑぎ

 続いて黒人のジョニー−ジェイリン・ウェッブも自分の名前を、ボンド、ジェームズ・ボンドとふざけて云い前に。こうやって知り合ったポールとジョニーの関係と、ポールとその家族のプロットが綴られる映画。尚、タイトルにある「アルマゲドン」は、当時大統領候補だったロナルド・レーガンの発言に拠る。劇中、家族でテレビを見る場面で出て来る。

 ポールはジョニーに、お母さんはPTA会長で権力者。ウチはスーパーリッチと云う。去年はイギリスに旅行した(ビートルズのファンのよう)。しかし、父親−ジェレミー・ストロングは配管工だろうか、決して裕福ではない。母親−アン・ハサウェイも学校に影響を及ぼすような権限は無いようだ。ポールは現実を正しく認識する力が足りないのだ。祖父−アンソニー・ホプキンスや祖母、大伯母さんも加わったディナーのシーンでも、ポールは(お兄さんもだが)、問題行動を取る。しかし、このシーンでは、ホプキンスが自分の母親(ポールにとって曾祖母)が、ウクライナからイギリス経由でアメリカへ亡命した話をする。ロシア人によるユダヤ人虐殺の話だ。こゝから、ポールの認識レベルは甘いかも知れないが、我々観客にとっては、被差別者の感覚が通底する映画になる。

 一方、ポールは、画家になるのが夢だ。お祖父さんが一番応援してくれており、絵の具をプレゼントしてくれる。この絡みの場面だと、学校の社会見学で行く、グッゲンハイム美術館で、カンディンスキーを見るシーンがいい。こゝでポールの幻想が挿入される。この後、ジョニーは地下鉄の中で、NASAに入るのが夢と云う。しかし、それを聞いていた黒人の男に馬鹿にされるのだ。黒人が入れるわけがないと。

 さて、プロット展開の転機になるのは、ポールがジョニーに誘われて学校のトイレでドラッグを喫い、笑いが止まらなくなる事件だろう。学校長だろうか、三者面談の際、お母さんにポールのことを「鈍い(スロー)」と云う。こゝで怒って帰るお母さんのハサウェイもいいが、帰宅した後のお父さんの折檻−鞭打ちのシーンの演出が、たいそう迫力のあるものだ。このお父さんのDV場面は、終盤になって効いてくる。

 後半は、兄と同じ学校に転校したポールと、学校に行かなくなったジョニーが、2人でNASAのある(ケネディ宇宙センターのある)フロリダへ旅立つために起こした事件の顛末が主軸のプロットになる。もう梗概は割愛して、特記したいことを書いておくと、ポールが転校したのは名門私立校で、トランプ一族の息がかかっていることが描かれている。ドナルド・トランプは出て来ないが、その姉マリアン(当時検事補)は来賓を代表して生徒の前でスピーチをするが、これをジェシカ・チャステインが特出のようなかたちでやっており、彼女が出ているとは知らなかったので、私は驚いた。これがまたエリート意識満載のスピーチなのだ(皮肉のつもりでやっているのだろう)。

 あと、本作の撮影は、ダリウス・コンジだが、とてもナチュラルな画面造型で押し通しており、コンジらしさが希薄だと云えると思う。ただし、ポールが、お祖父さん−ホプキンスと、公園で玩具のロケットの打ち上げを行うシーンが、夕方であることを一瞬不思議に思ったのだが(晴れた日を選択するのが普通と思ったのだ)、夕景を選んでいるのは、コンジだからか、とも思う。こゝは、ホプキンスが差別についてキチンと語る、全編でも最も良いシーンになっている。

 そして、終盤の事件の顛末については、甘過ぎる描写だと思うけれど、その裏返しとして、ポールにとっては、とても苦い結末であるのも確かだろう。ただし、エンディングで挿入される、学内及び自宅内をトラックバックするショットに関して云うと、私には、ポールがこの後、力強く生きていく(独り立ちしていく)、希望のようなものを表現していると感じられた。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ペンクロフ[*]

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