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[コメント] クライムズ・オブ・ザ・フューチャー(2022/カナダ=ギリシャ)

比喩もひねりもないストレートさ。監督の主張する「これがほんとのSDGs」は風刺や批評ではなくもはや世間に対する犯行ともいうべきダイレクトさ。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







人間が作り出した物質や文明的なものが、肉体や人の精神のようなネイキッドなものを侵食していく、というのが監督の一貫した創作モチーフだと思うけど、プラスチック廃棄を止めないと人間はプラスチックを食って生きていくように進化するしかないじゃん、進化したらそれは人間でないものになることで、それはこんだけグロですけどいいですか? という、作品の志自体は良識そのもの。なんなら文明批評系のSFが好きな小中学生あたりが考えそうなストーリー。

「人が人でないものに変わってしまう」ことに危惧する勢力と、積極的にプラスチックゴミに順応できるよう人体改造すべきだという勢力の対立図式の描き方なんかは、善悪や倫理観で対立するのではなく、政府政治家が「人が人でないものに変わってしまう」ことが自分たちに(国民にではない)不都合だ、とか、ライフホームウェアなんていう企業も、人間がプラスチックごみを食べられるようになると自分とこの高額医療器機が売れなくなって困るとか自分の利益のためであるはずだろう。臓器登録所とか、社員が直接人殺しなんかしてる利害関係の単純さとか、自然の食物は嚥下もできないのにプラスチックゴミから作ったチョコバーを食べてとろけそうだとか、子どもっぽい発想だがそれがいい。見たこともない臓器が体から出てきたり、体中に耳を縫い付けたりとかの「未来の犯罪」描写で退場者が続出とかが本当だったら監督もしてやったりなんだろうな。要するにこんな程度でゲロってるけど、今人間が行っている「現代の犯罪」はこれと同じだろうっというのが監督の犯意なのだから。

冒頭のベッドで思わず笑ってしまった。『裸のランチ』のゴキブリタイプライターを思い出す。こういうのを一流のバジェットの映画で作ってくれるクローネンバーグ監督。好きだなあ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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