[コメント] キリエのうた(2023/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
先に苦言を呈します。
私は、岩井俊二を「アイディアとテクニックの人」と評していたのですが、本作は手癖で撮ってる感があります。『スワロウテイル』であるばかりでなく、『Love Letter』であり、『リリイ・シュシュのすべて』であり、『花とアリス』。そして根底のテーマは『ラストレター』。ま、彼は宮城県出身ですから、それは仕方がない。
相変わらず女の子がイチャイチャしてるのが好きな岩井俊二ですが、いよいよ60歳になって、奥菜恵や広瀬すずというかつての自分のミューズを登場させて「結局、女は詐欺師だった」ということにやっと気付いたという映画です。大人になったな、岩井俊二。
冒頭、アイナ・ジ・エンドがアカペラで歌うオフコース「さよなら」で、ハートを鷲掴みにされます。岩井俊二はこの冒頭で、「これは別れの映画です」宣言をしているのです。久保田早紀「異邦人」も歌われていますね。これは「彷徨う者」の物語であることの暗示です。同様に、新宿南口辺りでアイナ・ジ・エンドと広瀬すずが出会った後のシーンでは、バックに「帰れないふたり」が流れます。なんと分かりやすい。その後のオリジナル曲は、小林武史が作ってると思うと腹が立ちますが、アイナ・ジ・エンドの歌は大変素晴らしい。まるで憂歌団の木村充揮。天使のダミ声の再降臨。
タイトルでいう「キリエ」は誰なのか?私は、歌手キリエ(本当はルカ)のことではなく、姉のキリエを指していると思っています。この映画は、姉キリエへの、そしてあの災害での犠牲者への|鎮魂歌(レクイエム)なのです。だから主人公二人は、彼の地へ向かうのです。
もう一つ。「アイディアとテクニックの人」岩井俊二がどうした?的なことを冒頭で書きましたが、現代を切り取る視点は流石です。それは、「プロになることがゴールではない」ということ。
この手の話は、プロになったり、歌手として成功するのがゴールだったりするものです。でもこの映画は違います。地位とか名声とか、足元にビッグマネー叩きつけてやるとか、そういうことが今時の若者の「ゴール」ではないんです。それにこの映画は鎮魂歌、つまり「魂の映画」ですから、物理的なものを手にすることが結論じゃいけないんです。
純白のメルセデス、プール付きのマンション、最高の女とベッドでドン・ペリニヨン的な価値観の代表が、豊原功補なんですよ。爆笑シーン。
余談
松村カムカム北斗くんは、かねがね江口洋介に似てると思っていましたが、兄弟じゃねーよな。親子の年齢だよな。
(2023.10.22 新宿ピカデリーにて鑑賞)
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