コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ナポレオン(2023/米=英)

歓声。廊下を歩く女性の捕縛。断頭台。落ちる首。群衆の中にナポレオン−ホアキン・フェニックスがいる。恐怖政治の終焉と釈放される人々。さまよい歩くジョセフィーヌ−ヴァネッサ・カービー
ゑぎ

 本作は、戦史及び私生活も含めた史実(?)をリズムよく繋いで、ダイジェストとしてはよくまとまっているとも思うが、戦闘描写、政治活動、ジョセフィーヌとの関係、いずれにおいても深みが無く、中途半端に感じられた。

 戦場のシーンということでは、本作中の緒戦となるトゥーロン攻囲戦、アウステルリッツの三帝会戦、そしてワーテルローの戦いの3つの場面が比重を置いて描かれているが、それぞれにかける尺は少ない。あっという間に決着がついてしまうという感覚を持った。しかし、トゥーロンで、ナポレオンが騎乗している馬の胸に、砲弾があたる場面の演出はいいと思ったが、アウステルリッツで、氷結した湖中に沈む馬のショットが、ほぼ無いというのは、どういうことだろうと思いながら見た(動物愛護的な忖度なのか?フェイクもしくはCGでもいいのに)。ただし、ワーテルローでの、英軍による方陣の描写や、ナポレオンが自ら率いた騎兵部隊の突撃と、到着したプロイセンの援軍の見せ方には素直に瞠目した。アウステルリッツでもワーテルローでも、肉弾戦の場面で、原田眞人みたいな(っていうか、原田が真似をしているのだが)小さく素早いズームインを使うカメラワークには、私はシラけてしまったけれど。

 私生活では、ほゞジョセフィーヌとの関係しか描かれない。例えば、オーストリアから迎えたマリー・ルイーズとの生活や、待望の我が子(嫡男)ナポレオン2世との描写がごく僅かしかない。親子の関係がほゞ描かれない、という点については、ジョセフィーヌにおいても徹底していて、彼女には前夫との間に子が2人いたというのは序盤に示されているが(息子が前夫の剣を受け取るという段取りは、ジョセフィーヌが仕組んだのか?)、彼女の子どもたちへの母性も全くと云っていいほど描かれないのだ。このプロット構成は、選択と集中というやつだとは承知しているが、やはり薄っぺらさの一因になっている。

 あるいは、ナポレオンの人望を裏付けるような彼の度量、人間的魅力が描かれていたと云えるだろうか。これもほとんどフェニックスの存在感頼みのように思われたのだが。例えば、エルバ島を脱出した後に、彼の進軍に加わる兵士たち、といった部分で、納得性に難があると私には感じられてしまった。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。