[コメント] 窓ぎわのトットちゃん(2023/日)
本作は、原作通り、自由が丘駅改札の場面から始まる。トットちゃんのトモエ学園への初登校シーンだが、すぐに回想が入り、トットちゃんが前の学校を放校されることになるエピソードを紹介する。こゝに、チンドン屋さんが出てくるのが重要なのだ。これも原作通りだが、「窓ぎわ」とは、チンドン屋さんを見る特等席であり、この映画としては、チンドン屋は(もっと云えば音楽は)、自由の(平和の)象徴と云ってもいいのかも知れない。
エンドロール中、イメージシーンで分担スタフが明記されていたのは、確か、「電車の教室」「プール」「夢」の3つだったと思う。あと他にも、自由が丘商店街から駅までの『雨に唄えば』っぽいシーンも加えたくなる。映画へのオマージュという意味だと、「夢」では「アンクル・トムの小屋」から喚起された農場イメージに続き、逃げるトットちゃんとヤスアキちゃんが『東への道』みたいな氷に乗る部分がある。いずれにしても、イメージシーンは、それぞれ、画調もキャラクターデザインもかなり変化をつけているのだが、どれもよく描けていて面白かった。これは、本作の独創性という意味でのチャームポイントだろう。
ただし、題材的な(原作を重視した)要請でもあるので仕方がないとは思うが、エピソードの散漫な羅列に感じるところもある。「もどしとけよ(トイレで落とした財布を回収しようとする場面)」「よく噛めよ(昼食の時間)」「リトミック(リズム教育)」「一生のお願い(縁日のひよこ)」「しっぽ(担任の先生が叱責される場面)」「運動会(高橋くんの活躍)」「お相撲(お嫁さんにしてあげない)」「ヴァイオリン(お父さんが「タイスの瞑想曲」を弾く)」などなど。
この中には完結したエピソードとして良く出来ているものものあるし、「よく噛めよ」と「リトミック」が上述の『雨に唄えば』を想起するシーンに繋がっているとも思う。縁日のひよこがフラッシュバックで短く挿入されるカッティングもある。このあたりの連関はよく考えられた部分ではあるが、クライマックスと云うべき、田園調布の教会からトモエ学園まで、トットちゃんが駈けていくシーンでのフラッシュバックの連打は、私にはやり過ぎと感じられた。
そして終盤、3人のチンドン屋が再登場する。この場面の立体的な画面造型には昂奮した。同時に、トットちゃんが赤ん坊の弟を抱いて、走る列車から身を乗り出すという場面でもあり、列車からふり落とされないかと心配になる、とても怖い、スリリングな絵面なのだ。これは不思議な余韻を与えるエンディングだ。続編を期待させる。
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