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[コメント] 密告(1943/仏)

冒頭「どこにでもある小さな村」と字幕が出、山からパンとティルトして町を俯瞰する。続いて墓地を移動。手前に柱を映しながら奥に墓を見せる移動ショット。鉄扉が開いて塔をアオリで見せる。本作も扉や鉄柵が何度も活用される映画だ。
ゑぎ

 また「小さな村」とあったが、ある程度の規模の町であり、主な舞台となる町の病院は、医師が複数名いて入院患者も多い中規模なものだし、小学校の子供たちも沢山いるように見える。

 クルーゾーにはコメディタッチの洒脱な演出が基調となる映画もあるが、本作は全編がシリアス編。主人公の医師レミー・ジェルマン−ピエール・フレネーが、登場からずっと怖い顔をしている映画だ(戸外で待っているお婆さんに「母子の内、母体は助けた」と云いながら登場する)。それもそのはず、主人公の誹謗中傷というか、その行いを密告する怪文書が町の住民に何度も届くというお話だ。原題は「カラス」を意味するが、これは怪文書の署名−密告者のことだ。

 主人公のフレネーに絡む女性が複数人いる。まずは同僚の医師ヴォルゼ−ピエール・ラルケの妻ローラ−ミシュリーヌ・フランセ。次にフレネーのアパートの隣室に住むドニーズ−ジネット・ルクレール。メインのプロットはこの3人の関係にフォーカスされるのだが、ローラの姉で看護師のマリー・コルバン−エレナ・マンソンもフレネーのことを想っているし、ドニーズの姪ロランド−リリアーヌ・メニエはまだ15歳で思慕という程のものではないかも知れないが、それでもフレネーに適時絡んで良い活躍をする(この娘は少女時代の高峰秀子みたい。『女学生記』とか)。

 そして、この中で真のヒロインと云うべきは、ローラかドニーズか、というのが収束のポイントになるのだけれど、ドニーズ役のエレナ・マンソンが、私にはかなりキツイと感じられる女優であるという点が本作の一番の難点だ。『情婦マノン』のセシル・オーブリーもそうだが、クルーゾーは、私には綺麗とも可愛いとも魅力があるとも思えない女優を使うところがある。

 勿論、見捨てられない画面造型も多々ある。階段とその壁に映った影の演出。影については、主人公のフレネーが教会に行くと、3人の女性が逐次登場し鉢合わせになる場面でも上手く使われる。他にも、終盤、フレネーと老医師ヴォルゼ−ラルケの会話シーンで電灯を揺らせる演出。こゝも揺れる電灯の影が効く。光と影の中、机にある地球儀が浮かび上がるのだが、それは、人間の愚かさはこの町だけでなく普遍的なものだという隠喩だろう。しかしこれはワザとらしいと思ってしまった。あるいは、終盤のヒロイン2人、いずれの描写も大仰過ぎると私には感じられる。ラストショットなんかは悪くないのだが、クルーゾーのやり過ぎのいやらしさも多々ある映画だと思う。

#備忘でその他の配役などについて記述。

・学校の先生はドニーズの兄でロランドの父−隻腕のノエル・ロクヴェール

・13番の患者はロジェ・ブラン、その母親は『嘆きのテレーズ』のシルヴィー

・病院の会計係ボネヴィにジャン・ブロシャール

・町の雑貨店のおかみさんはジャンヌ・フュジエ=ジールだ。

(評価:★3)

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