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[コメント] 無人の野(1979/ベトナム)

メコンデルタにおけるベトコン夫婦と米ヘリとの対決。機関銃ぶっぱなす女というフォルムの究極がここにあり、同じ形状を取る娯楽作はどれも本作の模倣に観えてしまうだろう。現実との往還を経たフィルムの生々しさよ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







1972年の南ベトナム、メコンデルタの沼地。冒頭はバードーとサウソアの相聞歌、マイナーなギター、男は樹木に登って「おつむが悪くて結婚してもらえないのか」と揶揄い、女は舟から「軍隊に入らないと相手にしてもらえないわよ」と応ずる。キャメラは小舟の舳先から、生い茂る花をかき分けるかき分け川を行く。次のシーンではすでに赤ん坊がいて、水上の粗末な小屋に住まっている。明後日に浸水しそうだから明日は床上げするという会話があった。

男がヌクマムを飲むショットがあり、酒かと思って調べたら魚醤だった。調味料であり普通はそのまま飲みはしないのだろう。男はギターを弾くのだが、このメロディがシタール風で独特のものだった。

男は大量の舟を先導する。この川の救出行程はホーチミンラインと呼ばれている。ホー主席の教えを守ろう、という指示が飛んでいる。この映画でプロパガンダ的な件はただこれだけである。襲撃されて男は囮になり、空に空砲を撃って逃げる。

再三にわたるヘリとの対決がある。女が小舟で、あれは水面の草の掃除なのか、それと魚釣りの最中に襲撃、ヘリは迫力の低空飛行、爆弾、水柱。女は川に逃れ、舟は破壊される。男は赤ん坊を樽に入れてから泳ぎ、川面で再会。川には芒で覆った防空壕がある。またヘリ、二機に増えている。赤ん坊に袋被せて川に潜る。ものすごい至近距離を川すれすれに飛ぶ。

この赤ん坊はつねにいい顔をしてくれないのが判る。過酷な撮影なのだろう。女は赤ん坊を川に落とし、男は女を殴る。不和の時間帯があり、和解が描かれるのだが、この和解を映画はばっさり省略する。男は蛇を捕まえて解体、肝を取り出し、皮を剥ぐ。拾ったパラシュートで裁縫して産着を作る。女の親たちがいる川面の集落がある。

何度か米兵が会議室で対話する件がある。兵隊はふたりしか登場せず、ベトナム語を喋り、会議室もショボいが窓からはヘリが山ほどあるヘリ基地が見える。「ベトコンめ、うまく逃げあがる」川のうえから夜は照明弾を落とし、投降を促す放送をガンガン流す。

今度は三機。撃たれる男。女は撃ち返し命中。黒煙あげて墜落するヘリ。鳥が鳴き、米兵の子供の写真が映り、部屋の赤ん坊が映る。センチメンタル一切なしのクールな収束。

(評価:★5)

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