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[コメント] 巴里祭(1933/仏)

食らえ。これがエスプリだ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 世界大戦前のパリの下町を舞台に、少々長いスパンでの恋物語を描く作品。タイトルから一見おしゃれなものを想像するし、軽快かつ上品に撮られてはいるものの、内容は結構重いものがある。

 それは結局は貧困さというところに尽きる。貧しさ故、生きるためにしなければならないことという部分がかなり大きなウェイトを占めることをしっかりと描いているから。

 最初、まだ若い二人は意外に身持ちが固く、花売りと運転手という、まっとうな職業に付いていた。ここでこの二人が素直に結びついていたら、そのまま貧乏だが幸せな家庭を築いていたのかもしれない。

 それだったら二人は幸せに暮らし、めでたしめでたしだが、それでは映画にならないし、そこで恋に敗れた結果どうなるかが物語の重要な部分になる。

 些細な行き違いで別れた二人は、それぞれ生きるために身持ちを崩していくことになる。ジャンは犯罪者に、そしてアンナは街の有力者の情婦として。ほんのちょっとした行き違いから、二人の人生は転落していくことになる。

 そしてこれで物語が終わるのならば、そのまま悲惨な物語として終わるだろう。

 ただ、そんな二人が再び出会う。そこから物語は再び軌道修正されていく。偶然の出会いから、再び元の職業に戻った二人は、又出会い、そしてそこでようやく行き着くべきところに行き着く。

 これをどう考えるべきか。

 結びつくことによって幸せになるはずの二人であり、離れれば離れるほど二人は不幸になっていくとすると考えることもできる。結びつくべきものが結びつかない歯がゆさのようなものが主題と考えるなら、これはフランス流のエスプリが効いた軽快な物語と捉えることが出来るし、多分その解釈で間違ってはいないし、多分それが正解だろう。

 ただ、これを日本流に考えるならば、ふたりとも貧しさ故にどん底を舐め、その上で正気に返る。その過程を経てこそ、二人の恋は本当に実るのだ。ということになっていくだろう。演歌調でかなり重いものになってしまうけど、そう考えることによって、本作は非常に内容が濃いものになっていく。これは、「人はやり直すことができる」という単純且つ普遍的な真理が込められてもいるのだ。

 おしゃれで軽快な物語には違いないけど、その奥にはどっしりとした見応えのある物語としても見られる。そのバランスの良さが本作の最高の良さを作っていってるのだろう。

(評価:★4)

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