[コメント] オッペンハイマー(2023/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
アメリカの(と言うより人類の、だろうが)原爆開発の父と言われるオッペンハイマーが、毀誉褒貶ある人物だということはわかった。映画の中で、ハリー・トルーマン米大統領(ゲイリー・オールドマン)が言っていたとおり、原爆投下について非難されるのは、開発した科学者たちでなく、決断した政治家(=トルーマン)であると、何となくにせよ思っていたからであろう。オッペンハイマーやその周辺の科学者たちが、科学的・物理学的に超重要な成果を成し遂げたいという欲望(それだけではないが、少なくとも)に突き動かされ、そのために何万人もの命が失われること(実際に死んだのは何十万人だが)を省みなかったという「事実」を突き付けられた訳だが、言われてみればその通りだろうと思うけれど、ちょっと新鮮な視点であったのは確かだ。ヒロシマ、ナガサキに原爆が落とされたことを、足を踏み鳴らして歓喜するアメリカ人スタッフたちの様子を見せられ、吐き気のするような胸のムカつきを覚え、やりきれない悲しさに涙がこぼれたのである。その程度には自分も日本人だったのだ。
そんな感情を生起させられたという意味において、本作の構成は効果的だった。主要なイベントをただ時系列に並べるだけの伝記映画も多い(個人的意見)中で、この取り組みそのものは評価できる。ただ後半、査問会だか聴聞会だか知らない(「これは裁判ではない」という台詞が何度もあった)が、法廷闘争みたいなドラマの分量が多すぎたと思う。特に、別の年代の2つの査問を行ったり来たりしながら描くので、映画がどんな物語を紡いでいるのか、紡ごうとしているのかがわかりづらかった。オッペンハイマーに公の場で笑い者にされたことを根に持ち、彼にソ連のスパイの嫌疑をかけて、機密情報へのアクセス権をはく奪しようと画策した、ストローズ(ロバート・ダウニーJr.)という人物に焦点が当たりすぎで、オッペンハイマーの物語としてはバランスが悪かったと思う。この部分、ドラマとしてはよく出来ていて、ロバート・ダウニーの芝居も素晴らしかったけれど、もう少し圧縮できれば良かった。尺も長かったし(今回は尿意に苦しまされることはなかったけど)。
僕らは子どもの頃からヒロシマ・ナガサキの被害がどういうものだったかを見せられてきた。縞の服を着ていたら火傷が縞状だったとか、顔からトイレットペーパーみたいなものが剥がれたりとか(何じゃありゃ)、そんな生易しいものではない。原爆投下は正当だったと主張するなら、そのもたらした結果をも直視せよと言いたい。アメリカ映画に原爆の惨禍を描くことはまだまだ期待できないようだが、せめて「見たくない現実を見ないようにしている」ところまで描いてくれたら、人の世の道徳というものに少しは信頼が持てるのだが。
75/100(24/4/28見)
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。