[コメント] お嬢さん社長(1953/日)
しかし、いやはやどうして、そこは流石に川島だ。実に高いクォリティの歌謡映画になっている。確かにプロット展開は他愛ないものだが、川島の映画作りはこゝでも極めて丁寧だ。ワンカットワンカットを味わうように見ることのできる演出と云いたい。
例えば、ひばりがゴルフ場でティーショットを打ち、それがホールインワンになるアバンタイトルから始まって、隅田川を行くボートや都電軌道のある道路と走る自動車を繋ぐクレジットバック。車が停まって、医者−小林十九二が「日本一乳菓」のビルの中に入ることで、主要人物の半分ぐらい−社長の市川小太夫、専務−多々良純、旧経理部長−清水一郎、新経理部長−有島一郎、有島の娘で社長秘書の月丘夢路ら−を効率的に登場させる冒頭の語り口。社長−市川の持病が悪化したことで、跡継ぎは孫のひばりが指名される。
ひばりの登場は、タクシーの中から降りる動的なショット。浅草国際劇場の前。本作は会社内の場面と共に、浅草周辺のシーンが多く出て来る。中でも、お稲荷横丁という名の小路(スタジオセット)に住む人々が大事な脇役となる。ひばりが想いを寄せることになる劇場の舞台監督−佐田啓二、佐田と同居する自称インダストリアルデザイナー(現在は看板描き)の大坂志郎、隣人の幇間の師弟−坂本武と桂小金治や、お灸の治療院をやっている桜むつ子とその娘の小園蓉子。
ひばりの亡き母は浅草で歌手をしていたこともあり、自身も歌手になりたいという設定なので、ひばりには沢山の歌唱シーンがある。同時に多々良や清水による会社乗っ取り(というか買収計画)や、3人の女優陣の恋模様も描かれる展開で、このあたりも上手く盛り込まれる。すなわち、ひばりと月丘は佐田を好きになり、小園は大坂のことを想う。このひばり、月丘、小園には、それぞれ会話シーンでクルっと振り返らせてバストショットを繋ぐ印象的な切り返しが与えられている。
また、ひばりの歌唱シーンで多用されるクレーン移動撮影もいいし、複数人の会話シーンで、例えば、ひばりのバストショットからトラックバック(ドリー後退移動)し、マスターショットレベルに引いて、会話に参加する全員を見せるといったカメラワークも反復されて、これらの処理は実に見事に決まっている。あるいは、幇間という仕事を卑下する坂本に「社長も幇間も立派な仕事」と泣きながら云うひばりに心動かされずにはいられないじゃないか。結局、佐田が選ぶのはどちらか?どいう帰結に関してはイマイチな描き方のようにも感じるが、ラストで歌唱するひばりのバストショットを細かく繋ぐ演出は、全編を象徴するかのようだ。これは、ひばりの魅力を楽しむと同時に、川島の画面作りを味わう映画だ。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・ひばりの家庭教師で奈良真養。女中(婆や)に高松栄子。運転手は青木富夫。
・ひばりの登場シーンで車から一緒に降りる舞台女優はSKDの江川滝子。
・横丁の他の住人では、桜の夫(小園の父)に竹田法一。占い師の水木凉子。
・日本一乳菓の宣伝課長は永井達郎。社員の中には高友子の顔が見える。
・怪しい外国人(取引先)の王さんは小藤田正一。
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