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[コメント] プリシラ(2023/米=伊)

意外にも、ソフィアの映画に特殊な人は出てこない。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「セレブ女子の孤独」を描いたら世界で一番巧いソフィア・コッポラ。彼女の映画で貧乏臭い話を見たことない。もっとも、世の中に「セレブ女子の孤独」が刺さる層はあんまりいないと思うんですけどね。なぜか私は刺さるんですよ、庶民の中年男性ですけどね。

今回初めて気付いたんですが、ソフィアの映画って、登場人物が意外と「普通」のような気がします。エルビス・プレスリーという「特殊な人」を登場させながら、人間としては「特殊な人」扱いをしていない。実は変な人とか、悪い人とか、変態とか、脚フェチとか(<ブニュエルか)そういうの全然ないんです。これは、今までの映画でも同じ。彼女が描くのはセレブですが、精神的に特殊な話ではない。人間的には、いたって普通の人々だと思うのです。

特にこの映画は、人間の「悪意」が存在しない。エルビスはキレることはあるけど、悪人としては描かれない。本当は「大佐」なる人物が悪徳プロデューサーとして名高いらしいけど、そこは強調しない。プリシラは、陰口は囁かれるし友達もいないけど、誰かに「悪意」をぶつけられることはない。基本的に、彼女の周囲に嫌な奴は出てこない。

ソフィアの描く女性は「自然体」だといつも思うのですが、本作も例外ではありません。実はプリシラも、ずっと「自然体」でいるような気がします。セレブの世界に馴染もうとか、合わせようとか、そういった努力や苦労は描かれません。孤独ではあるけど。「髪を染めろ」「柄物は着るな」と言われますが、プリシラの彼女らしさを損なうような強要はされない。彼女はずっと彼女のままのような気がします。もしかすると、ソフィアが描きたかったのは、女子の「自分らしさ」だったのかもしれません。

映画冒頭、タイトルバックで描かれるのは、マニキュア、口紅、つけまつ毛・・・。これは「女子の物語」宣言です。「あなた達と変わらない普通の女の子の話ですよ」ということなのでしょう。そう考えると、観客の女子に向けて「自分らしくあれ!」と言っているようにも思えます。

そしてこの映画は、プリシラ自ら車を運転して去っていきます。「人生のハンドルは自分で握れ!」「おまえのオールを任せるな!(<それは中島みゆき「宙船」)」というわけです。

(2024.04.21 恵比寿ガーデンシネマにて鑑賞)

(評価:★4)

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