[コメント] 大いなる不在(2023/日)
一つひとつのシーンに未知の事実を読み解く仕掛けが必ず準備されていて若い夫婦共ども観る者を老夫婦の過去へ導いていく。そのたたみ掛けてくるような語り口がスリリングでスクリーンから目が離せなくなる。そして正気の残滓を滲ませる父親の自信満々ぶりの悲しさ。
同じようにアンソニー・ホプキンスが認知症を発症したインテリ老父とその家族を描いた『ファーザー』 (2020)では、患者が目にしている「主観」世界を描いてホラーの様相を呈していた。本作の元大学教授の認知のズレは、彼のいささか高慢なプライドと現実のズレの体現という「客観」として描かれる。
息子夫婦の前にさらされた、その無防備な“傲慢さ”の残滓は「この男の過去の言動ならさもありなん」と見えつつ、人間の業の深さと狂気のあわいの“無常”として切なくも悲しい。藤竜也、圧巻の存在感。
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