[コメント] 墓泥棒と失われた女神(2023/伊=仏=スイス)
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この映画は、消えた恋人だか奥さんだかの話なんで『フランティック』ですな。ああ、すいません、意味もなくハリソン・フォード縛りで話してました。
このアリーチェ・ロルバケルという女性監督の作品を観たのはこれが初めてで、食べ慣れない料理みたいなもんで、まだ味わい方が分からない。美味しそうなんだけど、本当に美味しいとはまだ思えない…みたいな。子供の頃のブラックコーヒーみたいな感じ。もう少し他の作品を観たら美味しくいただけるようになるのかな?正直言うと、私は消化不良でした。
原題は「キメラ」。キメラとは「同一個体内に異なった遺伝的背景を持つ細胞が混じっていること」なんだそうです。平たく言うと「異質同体」だとか。その語源はギリシア神話に出てくる「キマイラ」だそうで、ライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ怪物だそうです。普通に、ライオンの方が強そうだな。
ギリシャ神話ついでに言うと、この映画の話の根幹は『オルフェ』なんですよ。
公式サイトによれば「監督は、フェリーニ、ヴィスコンティなどの豊かなイタリア映画史の遺伝子を確かに受け継ぎながら、革新的な作品を発表し続けている」そうで、たしかにフェリーニやヴィスコンティの影響はありますね。夢と現実の混在は『8 1/2』ですし、太った女が踊りますしね。クレーンで引き上げられる女神像は『甘い生活』を彷彿とさせます。祭りのシーンもフェリーニ的。
ヴィスコンティに関して言えば本作の主人公のイギリス人は『異邦人』なんだと思うんです。ちなみに、本作に出てくる「イタリア」という名の女性ですが、彼女はブラジルの女優さんだそうで、おそらく劇中でもブラジル人設定の「異邦人」なのでしょう。でも日本人の私にはイタリア人もイギリス人もブラジル人も見分けがつかない。80年代イタリアの田舎町における「異邦人」の置かれた状況が分からない。それもまた「消化不良」の一因かもしれません。
そう考えるとこの映画は、フェリーニの頭、オルフェの胴体、ヴィスコンティの尻尾を持つ「キメラ」ということなのでしょうかねえ・・・
ただまあ、監督がそれを消化(昇華)していたかというと、消化不良のような気もするんですけどねぇ。消化不良というか、相手が偉大すぎるというか……。35mmと16mmのフィルム撮影を混在させていると思うんですが、映画的なセンスというか映画「勘」みたいなものは感じましたけど。
(2024.08.17 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて鑑賞)
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