[コメント] 西湖畔(せいこはん)に生きる(2023/中国)
特に、トンネル内にバスを捉えたカメラが、トンネルを出たあと上昇移動し、山を俯瞰で映しながら、山道を歩く人々の小さな灯りの列、さらに茶畑の茶摘み作業の人々、そして最後はその中の一人に寄って行くパラノイアックなドローンの長回しには、やっぱり興奮させられる。あるいは、主人公の母子、タイホア−ジアン・チンチンとムーリエン−ウー・レイの茶畑での会話シーンを、全く切り返さずに、ゆったりとした浮遊するような移動とパンのシーケンスショットで造型する演出も悪くない。続く母タイホアと茶摘み仲間たちの共同生活の場面なんかも良いと思う。
これが、最初はバス旅行かと思わせる、集団心理療法を使った自己啓発セミナーみたいな騒々しいマルチ商法のシーンが挿入されて、こゝからの転調ぶりは、まるで監督が交代したのかと思ったぐらいだ。例えば、人物の周囲を360度回転しながら移動撮影するショットの多用など、大仰で嫌らしい画面ばかりになる。それが思いの外長く続く。また、母のタイホアが洗脳されていることを知った息子ムーリエの行動もワザとらしいし、この2人の絶叫演技が続く場面はもう勘弁して欲しいと思ってしまった。それに、セミナーの女性司会者やタイホアの友人の弟といった幹部メンバーが、組織の実態に気づいていなかったというのもアホらしくて白ける。
こうなると、生まれた時に木が割り当てられ、死んだらその木が伐り倒されるという興味深い風習を前提にした終盤の登山シーケンスも何を見せられているのかという気になってしまった。虎の登場も取ってつけたようだ。というワケで、本作はかなりアンバランスな出来だと云わざる得ない。俗っぽいセミナー場面を最小限にとどめ、序盤の演出貴重を持続できるプロット、例えば、もっと西湖や杭州の自然を中心に据えた作劇にし、都会の喧騒との対比を出していればと思う。
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