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[コメント] 八犬伝(2024/日)

物語は理想を歌うのか、現実を唄うのか――作劇論を心得た人が撮ったのだろうと思える中盤までは、時折ベタと思うも過不足がなく、鶴屋南北との論戦は白眉。ただそこがピークと思えるのは、以降、実、虚ともに人物の心理が大きく動いて見えないからだ。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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馬琴の心情にフォーカスしすぎた結果、鶴屋との論戦のテーマ、すなわち馬琴が苦悩し、八犬伝の肝としたはずのこの世の悪というモチーフが、かわいそうな息子の運命にすり替わってしまい、残念ながら立ち消えている。だから話もミニマムに感じられ、物語のダイナミズムが死んでいる。終盤、人物の心理を大きく動かし得たとすれば、それはとりもなおさず悪の存在に他ならない。息子の病のような「災難」でも構わないが、明確に対象化する必要がある。死んだ息子の嫁との共闘の背景として、悪あるいは災難に対する馬琴の慟哭がもう少し強調されるべき、というより、それの受け皿となる玉梓がフィーチャーされるべきで、これを大いに体現できたはずの栗山先生をお粗末な CG に変えやがった時点で、特撮も活劇も作劇も何も、おまえはもう死んでいると思えてしまった。

(評価:★3)

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