[コメント] 本心(2024/日)
もっとも、示唆的な描写も出て来るので、人によっては確信をもって受け止める(解釈する)かも知れないが、しかしそれはあくまでも、その人の受け止め方だろう。
母−田中裕子が自由死を選んだ理由。あの日、母が伝えたかった「大切な話」とは何だったのか。主人公の朔也−池松壮亮の、同居人・三好さん−三吉彩花に対する本当の想い。あるいは、ヴァーチャル・フィギュア(VF)には本当に心がないのか。では、人の心とは何なのか。あの日、母が伝えたかった「大切な話」は、ラスト、伊豆の河津七滝(大滝)の前でVFの田中裕子が喋った言葉の通りなのか。そしてラストショットの、空に伸ばした手は誰の手か。
冒頭のセピア色の教室のシーンは良くないと思った。風で揺れるカーテンのショットもイマイチだし、廊下から教室内を見る男子と、窓の側に座っている女子のこちらを向く切り返しが、ドキドキさせない繋ぎだ。他にも、リアルアバターの仕事を見せる部分で、田中泯に依頼された仕事の海岸のシーン。こゝも、夕景を綺麗に見せないのはどうしたことかと、かなり失望した。あと人物造型だと、主人公・朔也の後輩−水上恒司のオーバーアクトも鼻に付くし、彼がもっと朔也と三好さんのプロット展開に絡むのかと期待させて、腰砕けなのもいただけない。また、天才デザイナー「イフィー」の仲野太賀も嘘くさい造型だ。と、いろいろケチを付けたくなる点があるが、見ている最中に一番残念に感じていたのは、中盤でVFの田中裕子の出番が激減してしまったことだ。
というワケで、換言すれば、それだけVFになった田中裕子のシーンが面白いということです。だいたい、田中の声がいい!一人で部屋の中でダンスする場面なんかも実にいい。中盤も、もっとVFの見せ場を作ればよかったのに。ただし、田中の出番に置き換わったように尺を取って描かれるのが三吉彩花で、こちらもとても切ない造型で、実を云うと、田中の欠落感は、ちゃんと埋め合わせされた感覚も持つ。これは良いところだ。
さらに、田中と三吉には、映画的な連携を意識させる趣向がある。例えば、ダンスの場面は三吉にも2回あり、本作はダンスの映画という側面がある。あるいは、三吉には「人に触れることができない」という前提となる特性が与えられているのだが、「接触」のモチーフは、田中に対しても重要な場面で現れるだろう。VFには触れることができないはずなのだ。本作は「人に触れること」を描いた映画、と云うこともできるだろう。
#重要な事だと思うので書いときますが、三吉彩花の上半身ヌードショット有り。
#映画を見てから平野啓一郎の原作を読んだ(上の感想は読む前に書いたもの)。原作は映画よりも、ずっと格差社会について描かれている。主人公の一人称形式なので、彼の「本心」は明確にされている(と思う)。VFについても、原作の方が機械的に描かれている。あと、些細な改変部分、取捨選択で面白いと感じた点として、原作での黒猫のアバターはイフィー製、三好さんは整形美人、イフィーは19歳。
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