[コメント] 瀬戸はよいとこ 花嫁観光船(1976/日)
本作はむしろ、こういった社会的テーマが途中で腰砕けになり、単純に結びつくべき魅かれ合った男女の再生に収束する、という展開が瀬川作品らしくて私なんぞは好感を持つ。
主な舞台は明石。魅かれ合った男女は4組いて、まずフランキー堺と朝丘雪路のパチンコ屋夫婦。次に朝丘の妹の日色ともゑとその夫で観光船の船長−財津一郎。次に、山城新伍と田坂都だが、山城は、日色がリーダーのような「瀬戸内の自然を守る会」に参加し、集会の場を提供する塾講師。田坂もこの会のメンバーで、財津が船長の観光船でガイドをしている。そして最後の一組は、フランキーと朝丘の娘−村地弘美と山城の弟で建築家の卵−夏夕介で、村地も会のメンバー。この若い2人も自然を守る側と開発側という相反する立場だ。
これら人物の関係で、フランキーと朝丘が元夫婦漫才コンビだったという設定がコメディとしてはとてもよく効いていると思う。この2人が普通の会話をしながら漫才の掛け合いに発展するという会話シーンが何度も出てきて、特に朝丘の間が良くて感心した。あるいは、この演出の中で、朝丘はフランキーを怒りながらも情があるということを上手く伝える。ちなみに、普通にいちゃつくシーンでは、フランキーが朝丘の胸で算盤を転がす場面が好きだ。朝丘のレスポンス。
また、フランキーと山城が共にこっそりと三宮のストリップ小屋に通っていたということを見せる話の運び(それは、お互いの利害関係を知らない段階から、女性たちにバレることになる展開含めて)の調子の良さは特筆すべきだろう。ただし、山城の動機が踊り子の春川ますみ−浦島千鳥を見ることにある、という描き方が中途半端なのは私は本作の最も失望した点だ。山城の興味が踊り子本人ではなく日本古代史への興味だというそこの切り分けも分かりにくいが、何よりも春川ますみファンとしては、彼女の描き方が酷いと思った。
もっとも全体に、山城と朝丘という喜劇役者ではない(瀬川組の常連でもない)大物俳優2人がフランキーと財津に絶妙に絡んでとても面白い、という演出を称賛すべきとは思う。ちなみに日色は『喜劇 怪談旅行』ではフランキーの妻役、田坂も『喜劇 頑張らなくっちゃ!』で既に目立つ脇役として使われている。尚、瀬川組常連中の常連、ミヤコ蝶々も本作ではイマイチ目立たないのと、伴淳三郎のようなコメディを牽引できる大御所が不在なのは無いものねだりとは分かっちゃいるが、少々寂しい。
そして終盤、明石から徳島に舞台を移して「阿波踊り」の圧倒的な祝祭性でプロットを収束させるのは、『よさこい旅行』(「よさこい祭り」)の二番煎じかと思わせられたが(二番煎じでも、その描写は見事なものだが)、さらにもう一段見せ場(ミニチュアの特技!)を加えて満足感を高めて終わるというサービス精神は嬉しい。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・田坂の父親で財津の観光船の乗員でもある人見あきら。
・「自然を守る会」の中では西川ひかるも目立つ。他に東丘いずひ(太田美緒)。
・フランキーのパチンコ屋店員で名倉美里。
・フランキーと山城が行く焼き鳥屋で串を焼く大杉侃二郎がワンカットのみ。
・ナレーションは芥川隆行。
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