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[コメント] 死霊のはらわた(1981/米)

俺はCGは嫌いだから
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画ファンの好きな台詞に、俺はCGは嫌いだから、というのがある。このうちの99%は真っ赤な嘘っぱちで、そんなことは云う方も聞く方もはじめっから判りきっているんだが、云えばとりあえず気持ちいいから、事在る毎に云ってみるし、相槌を打つ。

俺も良く言う。CGは大嫌いだ、と。しかし、そう云いながら『少林サッカー』や『ピンポン』や、新世紀ホラーの夜明けと云われた?『スリーピー・ホロウ』なんかはしっかり見ていて、オマケに大好きで、だからこんな俺に、自分的にアウトというだけの『マトリックス』や『ハリー・ポッター』、『ロード・オブ・ザ・リング』や『スパイダーマン』を、その存在意義から否定する権利などないのだ。しかし、それでも、こんな作品を見てしまうと、少なくとも『スパイダーマン』の一作目については、悪魔に魂を売り渡した一作、と思わずにはいられない。

この映画はそれほど素晴らしいのだ。サム・ライミの映画的良心と野心というものが全ての画面に満ち溢れている。手作りの温かみのあるホラー映画の傑作。『オーメン』や『エクソシスト』や『フェノミナ』とはまた違った拘りを感じる。

ストーリ自体はムチャクチャで、意味不明で、構成も拙い。カッティングが下手なのか、というと、いや確かに思い切りヘタクソなんだが、しかし、冒頭のクロスカッティングや、人物(死霊)の出し方など、こと怖がらせるということにかけては絶品である。

音の使い方も秀逸。ブライアン・デ・パルマの傑作『ミッドナイト・クロス』でも描かれているが、ホラー映画ほど「録音」の重要なジャンルはなく、この映画でも「滴る音」「這う音」「呻く音」「軋む音」「爆ぜる音」が禍々しいほどの効果を上げている。音楽センスも良好で、個人的には前半の、アッシュと姉が橋が落ちたのを確認するシーンで鳴るムーグシンセを使ったBGMがお気に入りだ。

そして何より素晴らしいのがカメラである。ライミとライティング(照明)も兼任するティム・ファイローの完全なるコンビネイション。内に、外に、主観に客観に、視点の移動が本当に素晴らしい。黒澤清の近作『ドッペルゲンガー』に大きく失望させられたのは約半年前だが、昨今のジャパニーズホラー・ムーブメントに便乗して是非、ライミ監督にリメイクして欲しいものである。

映像は終盤、更に加速する。アッシュが散弾銃の弾丸を補給しに地下室に下るシーン以降だ。真の意味でシュールレアル。特に電気プラグと、裸電球から血が滴り落ちる描写は感動的ですらある。続くシーンでは天井と床をサカサマにしてみたり、鏡が水になったりと、全く予想が付かない。そのシーンが何を意味するかなんてことを完全にうっちゃり、思いついたんだからヤルんだ、というライミの映画的推進力が、このシークェンスを何十倍も面白くしている。ヤン・シュワングマイエルみたいなコマ撮りアニメーションは、悪乗りが過ぎた感もあるが、CGなんかを観ているよりはずっと楽しい。

俺は、この映画は、男性の女性に対する恐怖心を極限まで拡大して表現した、時代に沿うた意欲作なのかと思っていたのだが、終盤で突然、スコットも死霊化してしまって、何がなんだか判らなくなってしまった。ラストシーンへの繋がりも意味不明だ。意味不明でありながら、不思議と人物の心理は描写出来ているというのが、これまた不思議で、アッシュ青年にしても、スコット青年にしても実に血の通った、現実的存在感のある魅力的なキャラクタであった。

スパイダーマン2』は脚本家が変わって好評のようで、新文芸座二本立ての組み合わせが良かったら(証拠にも無く)見に行こうと思っているのだが、もっといいのはこのヒットを機に彼の過去作品を一気に回顧上映してくれることだ。『死霊のはらわた2』や『キャプテン・スーパーマーケット』はニュープリント上映される見通しはないのだろうか?

(@失念/20周年アニバーサリー)

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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