[コメント] シンドラーのリスト(1993/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
シンドラーはナチスの党員だった。しかも事業下手の実業家で、慈善家でもなかった。想像していたのと全く異なる人物だったので驚いた。
いつか観たい作品だと思っていたのだが、DVDが販売されたこの度、ようやく鑑賞。
DVD特典に関するコメントとメモを追記しました(2004.5.15)。
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シンドラーズ・リストは、
(1)シンドラーがナチ党員で、
(2)事業好きで、
(3)営業以外、自分では何も出来ないぐらい事業音痴で、
(4)胆力があって、
(5)戦争があって、
(6)ユダヤ資本を運用できて、
(7)低賃金の優秀なユダヤの会計士と労働者を雇える
以上の7条件が揃った、云わば、偶然の産物だった。
戦争を偶然とすることには語弊があるかもしれないが、歴史上、ヒトラーのような人物があのタイミングでドイツに存在し得たこと自体、偶然と言えはしないだろうか? そして、シンドラーがそこに居あわせたことも偶然だと思う。 ただし、第一次大戦で敗戦し極度の経済危機に陥っていたドイツの状況では、ヒトラーがいなくても他の誰かが別の戦争を起していたかもしれない。この意味では戦争は必然だったかもしれない。
しかし、偶然にしろ、必然にしろ、その時どう行動したかが 1100人の命を左右するほど後に影響を及ぼしうる、と言うことが作者の訴えたかったことだと思う。もしかしたら、シンドラーの変わりに私がいたかもしれないのだ。1100人のリストに私がいたかもしれないのだ。他人事ではない、自分の身に置き換えるとシンドラーの偉大さがわかる。
「車を売れば、あと10人は救えた」「金バッジを売れば、あと2人は救えた」と泣き崩れるシンドラー。慈善家でもなんでもない、事業家シンドラーだからこそ、訴えるものがあると思う。当サイトでこの行為が事実では無かったことを知ったが、であれば尚更シンドラーに対する思いが強まるばかりである。
シンドラーが、後の事業で失敗しつづけたとのエピローグは、戦後、ユダヤに頼らなかったシンドラーを感じさせるに必要十分で、今までの映画でもっとも意味あるエピローグだと思った。
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<<メモ;シンドラーに救われた方の証言で構成されたドキュメンタリー DVD特典映像(約75分)を鑑賞して>>
冒頭、スピルバーグ監督は真摯に語る。
「シンドラーという人間とその感情を描いているうちに、自分自身の感情を表に出すようになった。」「本作を通じて自分自身も大きく変わった。」「一人の人間が世の中を変えられるのである。」「生存者の証言はどんな映画よりも意味がある。」
ポーランドでシンドラーに雇われた複数の女性は「シンドラーの工場でも12時間の強制労働だったが、そこでは殺される心配がなかった。」「シンドラーは未来をくれた。」と語り、ある男性は「チェコの工場に至るまで、シンドラーを油断のならない人物として警戒していた」と証言した。作品中では描ききれてないシンドラーの一面もあったようである。
何百人もの子供をトラックに乗せてゲットーから連れ去るエピソードで流れていた音楽は子守唄だった。
チェコではなくアウシュビッツに手違いで連行された女性は、3週間もそこにいた。3週間後、彼女らが名前で呼ばれたことは幸運の兆し。何故ならそこでは番号で管理されており、名前で呼ばれることがなかったから。見るも「ゴースト」然とした彼女達をチェコで迎えたのは「中でパンとコーヒーをお上がり」とのシンドラーのやさしい言葉だった。
所長ゲートの人格は本物に忠実に描かれていたようだ。事実、バルコニーから何人ものユダヤ人を射殺していた(この証言の場で上半身裸のままバルコニーで銃を持つゲートの写真が挿入される)。彼が被る帽子で、その日何人殺すつもりか見当がついたそうだ。ゲートはチェコのシンドラーを訪問していた。そこで働いていたユダヤ人は、「ポーランドでは決して直視することが出来なかったが、ここではシンドラーが守ってくれると思い、はじめてゲートの顔を直視できた」と証言する。この頃には、シンドラーへの信頼は揺るがないものとなっていた。ドキュメンタリーに挿入された写真を見る限り、ゲートの雰囲気は本作のレイフ・ファインズに似ている。
戦後のシンドラーは、セメント会社、映画産業、農業と手を出すがことごとく失敗。戦時に成功できる人なのだろうと、シンドラーに救われた人は語る。シンドラーは自分が救った人たちと戦後疎遠になったわけでなく、親交を保ち続けた。誰が何をしているのか、他のユダヤの友に教えるほどだったと言う。
スピルバーグ監督が言うように、救われた方々の証言は非常に重みがあった。また、このドキュメンタリーは、構成・編集・音楽とも凝っていて内容も深い。こちらも是非、ご覧ください。
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